医療コラム『良い病院・良いドクターの選び方!』

(1)まず病気・治療方法・リスクを知る

名医かそうでないかを見極めるためには,まず自分の病気がどのようなもので,どのような治療方法があり,複数の治療方法があるときには,それぞれの治療方法のメリット・デメリット,治療することによるリスク・治療しないことによるリスク,予後などを徹底的に調べることが大事です。

医療法律相談では,医師から簡単な手術だと言われて受けたら医療事故に遭い死亡したり植物状態になったというケースが多いので,メリットよりむしろデメリット・リスクや失敗例を十分調べて,問題意識を持って医師の説明を受け,治療を受けるか検討し,受けると決めたら納得する医師から納得する治療を受けることをお勧めします。

(2)治療実績のある病院・医師を調べる

病気の基礎知識を身に付けたら今度は,病院や医師の治療実績を調べます。病院のホームページに年間治療件数を発表している医療施設もありますし,インターネットや書籍・雑誌等で様々な角度からランキングが発表されている場合が多いです。自宅や職場からの通い易さ等も考えながら候補施設を絞り込みますが,良い評判だけではなくインターネットで「○○病院,裁判」などのキーワードを入れて検索し,悪い評判も調べることが大切です。医療裁判を多く抱える病院は,病院の管理体制や診療体制に問題があるのみならず,医療ミスが起きても患者遺族からの示談交渉に応じず補償しない病院である可能性があります。

(3)いきなり名医に会えるはずなし!

初めてかかった病院で偶々名医に出会い神業の手術を受けられる確率はどれほどあるでしょうか。また,医師なら誰でも一緒でしょうか?器用でセンスの大変良い医師もいれば,中には臨床が向いていない医師もいるでしょう。治療内容にもよりますが,医師により結果に差がでることもあるでしょう。勿論,名医でも医療事故を起こすことはありますので名医だから良いというものではありませんが,セカンドオピニオン,サードオピニオンを受け,自分で病院を見て医師と話して納得のゆく病院・医師を選べば,たとえ結果が良くなくてもあきらめがつくのではないでしょうか。医療法律相談では,最初にかかった病院で医療事故に遭い,別の病院にしておけば良かったとか,セカンドオピニオンを受ければ良かったなどと後悔する声が多く聞かれますが事故にあってから後悔しても遅いです。くれぐれも病院選びは慎重になさってください。

医師を選ぶときは,患者に分かりやすく丁寧に説明してくれるか,患者の話を聞いてくれるか,リスクについても詳しく説明をしてくれるか等がポイントになります。

(4)設備,環境,看護師の態度は大丈夫?

医療施設の設備が整っていることは治療を受ける上で大事ですから最新の機器が揃っているか,希望する治療を受けられる医療機器があるかなども事前に調べておくべき点です。どのような医療機器があるかホームページで公表している医療施設が多いので比較的調べやすいです。設備とともに大事なのが,病院の雰囲気や看護師の態度です。

施設が古くても患者に優しい雰囲気の良い病院がある一方,建物は立派だけど患者を大切にしていないのではと首をかしげる病院もあります。医療相談を受けると,医師・看護師のコミュニケーション不足が原因でトラブルになっているケースが多いですが,中でも看護師への不満を述べる患者遺族が少なくありません。ナースコールをしても来てくれない,仕方なく家族がナースステーションまで看護師を呼びに行ったら担当ではないと言って断られたとか,患者が危篤状態で心配している家族の前で看護師が笑い声を上げておしゃべりをしていたとか,患者や家族に対し失礼な言動をとったとか数え上げれば枚挙にいとまがありません。逆に,患者を大切にする仕事熱心な看護師が揃っている病院の場合,医療事故が起きても遺族から「本当に良くして貰った」と感謝され紛争になりにくい傾向にあります。

(5)良い病院,最悪の病院

医療ミスが起きて患者が亡くなったとき,多くの遺族が真っ先に望むのは真相解明であり,次に医師や病院の真摯な謝罪と事故の再発防止の為の具体的対策であり,最後が適正な補償です。遺族は,なぜ患者が亡くなったのか,どのようにして亡くなったのか知らされなければ納得できず患者の死を受け入れられないのだと仰います。また,真摯な謝罪があれば病院側を許すことができますが,謝罪がなく反省の色が全く見られないようでは遺族の怒りが収まりません。起こしてしまった事故を反省して検証し事故の再発防止に繋げることが大切であって,医療ミスを認めず反省しない病院では事故の再発防止に繋がらず患者の死が無駄になってしまいます。医療法律相談で遺族からお話を伺うと,患者を犬死にしないため病院を訴えたい,あるいは医師を刑事告訴したいのだと仰います。

医療ミスを起こしても,医師が遺族に事故原因を丁寧に説明して真摯に謝罪し,病院が適正な補償をすれば紛争は早期円満に解決します。最悪の病院の場合は,明らかな医療ミスにより患者を死亡させてもミスを認めず事故原因を説明せず,遺族に謝罪も補償もしません。遺族は事故後,心ない病院の対応により2次被害を受けることになります。最悪の病院は,事故を隠蔽し闇の中に葬り去るので事故を繰り返し,患者の死が生かされることはありません。

(6)医療ミスの新聞記事から読み解く「最悪の病院」の見分け方

最悪の病院は,医療事故の新聞記事を読み解くとすぐ分かります。新聞に時々医療事故の記事が載っています。事故発生日,患者の年齢,事故の内容をまず読みます。もし誰が見ても明らかなミスなのに新聞記事に遺族が「損害賠償請求訴訟(裁判)を起こす方針」「業務上過失致死容疑での刑事告訴も検討」と書かれていれば,病院がミスを認めず補償しないばかりか,病院の遺族に対する対応がかなり悪いことが推測されます。病院がミスを認めて示談の話し合いが進んでいれば遺族が裁判を起こす必要はありませんし,賠償額の折り合いがつかないだけではこのような新聞記事になりません。また,遺族は,医療ミスがあっても損害賠償請求するだけで,医師の刑事責任を追及することは通常ありません。過失を憎んで人を憎まず,という遺族が殆どですから,「刑事告訴を検討」と記事に書かれていたら,病院の遺族に対する態度が非常に酷かったことが読み取れます。人間ですから事故は起きますが,大切なのは事故が起きた後どうするかです。事故を起こしても遺族に補償せず遺族から恨まれるような態度をとる病院は,病院の体制自体に問題がある場合が多いです。こうした病院は裁判に負けないカルテ作りや事故後の口裏合わせなど事故を隠蔽する誤った方向の安全管理体制を引いているので,事故の再発防止に繋がらず職員も事故慣れして医療事故が繰り返されます。事故が起こるべくして起こる病院の典型といえましょう。医療法律相談でも頻繁に相談を受ける医療事故のリピーター病院がありますので要注意です。

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医療コラム『航空機内のドクターコールで問われる医師の法的責任は?』

医師は,航空機内のドクターコールに応じる?応じない?

院内で医師を呼ぶことをドクターコールといいますが,航空機内で急に体調の悪い乗客が出て,「お医者様はいませんか?」と医師を呼び出すアナウンスもドクターコールといいます。医師に対し,機内のドクターコールに応じるかというアンケート調査をしたところ,回答した758人中,ドクターコールに応じると答えたのは34%,応じないは17%,その時になってみないと分からないが48%で,応じた経験のある医師のうち24%は次の機会は応じないと回答したそうです(日経メディカル5月号特集連動企画「ドクターコール」に応じますか?2007/5/1)。医師が,機内のドクターコールに応じない理由は,いろいろあると思いますが,法的責任を問われるのではないか心配という声が多かったそうです。機内でドクターコールに応じたところ急病人が死亡した場合,医師は責任を問われるでしょうか?

通常の医療ミスで問われる医師の法的責任

院内で医療ミスを起こした場合,医師は,民事損害賠償責任を問われます。患者が死亡した場合は,刑事責任を問われ業務上過失致死罪になる場合があります。業務上過失致死傷罪について刑法第211条は,業務上必要な注意を怠り,よって人を死傷させた者は,5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処すると定めています。さらに,罰金以上の刑に処せられると行政責任も問われ厚生労働大臣の行政処分(戒告・医業停止・免許取消)を受けます(医師法7条2項,4条3号,4号)。しかし法は不可能を強いるものではありません。法的責任追及をされる過失は,結果予見可能性及び結果回避可能性を前提とした結果回避義務違反のある場合です。結果を予見することが不可能であれば過失は問えません。また,予見可能であっても結果を回避することが不可能なら過失は問えません。結果を予見可能でかつ結果回避可能であったのに不注意で結果を回避しなかった場合に初めて法的責任が問われるのです。

航空機内の医療行為で医師は法的責任を負うでしょうか?

病院での診療行為なら過失だとしても,航空機内には医療施設はなく,CTやMRIなどの検査もできず,医療機器も医薬品も殆どなく,できることは限られており,しかも緊急の状況ですから,医師に求められる注意義務は軽減され刑事責任が問われることはまずありません。民事責任については,民法698条(緊急事務管理)に「管理者は,本人の身体,名誉又は財産に対する急迫の危害を免れさせるために事務管理をしたときは,悪意又は重大な過失があるのでなければ,これによって生じた損害を賠償する責任を負わない。」という定めがあります。事務管理というのは,法律上の義務がないのに他人のために事務を処理することで,例えば,行き倒れた人を病院に運ぶ場合がこれに当たります。機内でドクターコールに応じる法律上の義務はありませんから事務管理といえます。緊急の状況下で,検査ができず,医療機器も医薬品も殆どない機内ではできることが限られていますので原則責任を負いません。たとえば,強い胸痛を訴えている乗客が実は大動脈解離だったとしても検査ができなければ診断出来ませんし,仮に診断できたとしても機内では治療出来ません。急病人が重症の場合,航空機内では専門医でも救えないのですから,まして医師というだけで,医師なら何でもできるだろうと過剰な期待をするのは酷というものです。医療の分野は細分化しており,専門外のことは殆ど分からないのが実情だからです。したがって,航空機内のドクターコールに応じた医師は原則法的責任を負いません。ただ,損害賠償請求をするのは患者遺族の自由ですから,裁判等のリスクはゼロではありません。仮に提訴されても重大な過失がない限り賠償責任を負わないのは勿論ですが。

応召義務は負わないか?

航空機内でドクターコールに応じる法律上の義務はないと述べましたが,医師には応召義務があるのではないか,と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。応召義務とは,診療に従事する医師は,診察治療の求めがあった場合には,正当な事由がなければ,これを拒んではならないという定めです(医師法19条1項)。しかし,応召義務は,医師が医療施設で診察をする場合のものですので,乗客である医師が機内ドクターコールを無視しても応召義務違反にはなりません。

外国航空機内の場合は?

以上は,日本の航空機内の場合ですが,外国航空機内の場合でも,ドクターコールに応じて急病人が死亡しても原則刑事責任は負いません。外国航空機内の外国人の急病人の場合の民事責任は一概には言えませんが,例えばアメリカ・カナダには良きサマリア人の法(good Samaritan law)といって,事故あるいは緊急の場合に,無償で善意に基づき救助を行った場合、故意又は重大な過失がない限り民事上の賠償責任を負わないという法があります。ただ,民事責任については,最終的に責任を負わないとしても損害賠償請求される可能性はゼロではないのでリスクは伴います。航空会社が賠償金を負担するか,海外旅行保険で保険金が支払われれば良いですが,支払われるかは航空会社や保険会社の約款次第です。

航空機内で実際にドクターコールをされた患者の症状

日経メディカルのアンケート調査によると,回答者758人中,実際に機内ドクターコールに応じた医師200人(26%)が実施した処置は,安静を保つが52%,経過観察が33%,内服薬,外用薬使用が17%,注射薬使用が10%で殆どが軽症でしたが,救命救急措置が必要だった患者が6%(12人)あったとのことです。

原則法的責任を負わないとしても損害賠償請求されるリスクがゼロではないとすると医師は機内ドクターコールに応じ難くなります。他方患者の立場で考えると医師にはできる限り機内ドクターコールに応じて欲しいと思います。たとえ何もできないとしても,誰もいないよりは専門家である医師が傍で見守っていてくれるだけで患者は安心するでしょう。

なお,乗客が自己の病気を航空会社に隠して搭乗し緊急着陸を要した場合,乗客は航空会社に対し損害賠償責任を負う可能性があります。

まとめ

機内ドクターコールに応じて急病人が死亡しても原則医師は法的責任を負いません。しかし遺族から損害賠償請求される可能性はゼロではなく,たとえ民事裁判で負けないとしてもトラブルに巻き込まれるリスクはあります。医師の個人情報が特定されなければ損害賠償請求できませんので,航空会社が遺族に医師の名前や連絡先を知らせない限り損害賠償請求される事はないはずですが,医師が法的責任を心配せずに機内ドクターコールに応じられるようにするためには,ボランティアの医師にリスクを負わせるのではなく,医師に協力要請をする航空会社が,医師に損害賠償責任を負わせず航空会社がリスクを負担する旨を明確にすべきであり,実際にそのような対応をしている航空会社もあります。なお,機内ドクターコールに応じて裁判で争われたケースは現在までのところはないそうです。

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医療コラム『こんな医者は危ない!?』

危ない医師(1)患者と目を合わせない医師

病院の待合室で何時間も待たされたあげく,ようやく順番が回ってきたと思ったらろくに話も聞いて貰えず3分で終わった,などという話はけして珍しくありませんが,なかには診察中ずっとパーソナルコンピュータに入力し続け,一度も患者と目を合わせず体を触らない医師もいます。患者と目を合わせず患者の話を遮り,聴診も触診もしないで患者の状態が分かるはずがありません。医師にも,患者が多いので数をこなしたいとか,患者の話を聞くのがおっくうだとか,患者を触りたくないなどの理由があるのかもしれませんが,患者に触れずコミュニケーションも取れない医師では,患者の医師に対する不信感は増すばかりで,遅かれ早かれトラブルになるのは目に見えています。逆に,もし,医師が患者の目を見て話し,患者の話を聞き,患者に触れてくれる場合は良い医師の可能性が高いです。

危ない医師(2)コミュニケーションをとらない医師

医療法律相談のうち,本当の医療事故は1割未満です。9割以上の相談が医師のコミュニケーション不足が原因で患者家族が不信感を積もらせ医療事故だと思い込んでいるケースです。患者家族が医師とコミュニケーションが取れており信頼関係が築けている場合は,たとえ医療事故が起きても,患者家族は「先生は良くやってくれた」と感謝して紛争にならない一方,治療が適切でもコミュニケーションがとれていないと医師への不信感から医療事故ではないのに患者家族が医療事故だと思い込んでトラブルになる場合があります。 

入院患者の場合は,看護師がナースコールをしても来てくれなかったり,来ても自分は担当ではないからと適切な対応をしなかったり,言動が失礼であったりすると看護師の態度が悪かったという理由から後に医療紛争になることもあります。

医師・看護師その他の医療従事者が,患者家族と良好なコミュニケーションをとれるようになれば医療トラブルは9割近く減らせると思います。

■危ない医師(3)セカンドオピニオンを受けさせない医師

患者が納得のゆく治療方法を選択するため病状や治療方針について,現に診療を受けている主治医とは別の医療施設の医師に第2の意見を求めることをセカンドオピニオンといいます。患者が,セカンドオピニオンを希望すると主治医は診療情報提供書(患者紹介状),検査データや画像データなどを用意してくれるので患者はこれらを持って他の医師を受診し医師の意見を聞きます。セカンドオピニオンは,紹介元の病院の資料に基づいて他の医師が意見を述べることなので,別の医療施設で最初から検査や診療を受け直すときは通常の診療であって,セカンドオピニオンとはいいませんので気を付けて下さい。世の中にセカンドオピニオンという言葉が定着してきて,患者が複数の病院にかかって病状や治療方針を確認するようになってきましたが,患者が現在の主治医に,他の医師の意見を聴きたいと言って検査結果のコピーや診療情報提供書の作成を依頼してもセカンドオピニオンを受けさせない医師もいます。もちろん緊急の処置が必要で,セカンドオピニオンを受ける時間的余裕のない病状のときはセカンドオピニオンを受けられなくても仕方ありません。しかし,緊急性がないのに医師が,セカンドオピニオンを受けても結果は同じだと言って患者の訴えに耳を貸さなかったり,不機嫌になって無視することもあるそうです。医師が,患者の希望するセカンドオピニオンを拒否しても罰則などはありませんが,だからといって患者の要望を無視する医師では,信頼関係は築けず将来トラブルが起きるのは目に見えています。患者が納得のいく治療法を選択することができるよう,積極的に協力する医師は良い医師といえましょう。

■危ない医師(4)入院するまで手術の説明をしない医師

患者が入院するまで手術方法,リスクなど具体的な治療方針や治療内容を説明しない医師がいます。一種の囲い込みのようなもので,患者は,セカンドオピニオンを受けたいと思っていても入院してから詳しく説明するといわれ一旦入院してしまうと,外出ないし外泊許可をもらってまで他所の病院の医師の意見を求めるのは現実には難しく,結局セカンドオピニオンを受けるのを諦めてしまいます。しかし,医療事故が起きると患者や遺族が他所の病院にかかっていれば良かったと大変後悔することが多いので,後悔しないためには遠慮することなく入院前に手術の説明をするように求めるとともに他所の病院のセカンドオピニオンを受けたいと明確に医師に伝え,複数の医師の意見を聴いた上で,手術を受けたい医師から納得のいく治療方法を受けるべきです。 

危ない医師(5)手術の危険性を説明しない医師

医師は患者が治療方法などを選択するのに必要な説明をする義務があります。医師の中には,説明義務を単に手術同意書に患者の署名押捺を貰うためのもの程度の認識しかない場合が多いですが,説明義務は患者が治療内容や治療を受けるか受けないか,受けるとしていつ受けるか等の自己決定をするのに必要な情報を提供するのが目的です。従って,医師に求められる説明の程度は,患者の理解力によりケースバイケースだということに注意が必要です。患者は医師に対し治療について自己決定するのに必要な情報提供を要求できるわけですから,遠慮せず理解できるまで説明を求めて良いのです。 手術の場合は,実施予定の手術の内容(執刀者,助手の氏名を含む),手術の危険性,手術を実施しない場合の危険性,合併症の有無,他に選択可能な治療方法がある場合は,その内容と各々の手術方法のメリット・デメリットなどについて説明すべきとされています(厚生労働省・診療情報の提供等に関する指針の策定について,2003年)。           

ところが実際は,医師が手術をしなかった場合の危険性や手術のメリットばかり強調し,手術自体の危険性について十分説明せず,患者が緊急の必要性がないのに簡単な手術だと誤解して受けたところ植物状態になったり死亡したりするケースがあります。患者にリスク説明をすると手術を受けなくなるのではと心配する医師もいるでしょうが,事前にリスクに関する説明が十分なされていれば,リスクが現実化しても患者家族は予想しているので理解が得られやすい反面,リスク説明が足りず患者家族にとって予想外の結果になったときはトラブルになりやすいです。ですから,医師が,説明文書を渡しただけで説明しなかったときや手術自体のリスクや手術に伴う合併症の危険性を丁寧に説明しないときは要注意です。このような医師に当たったら患者からリスクの説明を求めた方が良いですが,患者自身に全く知識がないと何を聞けばよいか分からず,説明されても分からないのでは仕方がありませんから,自分の病気や治療方法,手術のリスクなど事前に調べてから医師に説明を求め,手術を受けるか否か,受けるとしていつ受けるか,どの方法にするか決定すべきです。患者が高齢で自分で調べられないときは患者の家族が調べて患者と一緒に医師の説明を聞くとよいでしょう。 

危ない医師(6)手術日前に患者に会わない執刀医

医療法律相談で,患者家族から手術ミスではないかという相談を受けることがありますが,それらに共通するのは手術日前に執刀医が患者に会っていない点です。執刀医の名前だけは知らされたが手術前に一度も会わなかったケースや,誰が執刀医か知らないまま手術を受け,術後も執刀医から説明がなく,医療事故にあった後,家族が患者の診療録を調べて初めて執刀医を知ったというケースもあります。ケース(1)の左右腎取り違え事件では,執刀医は手術前日病室に行くと言って結局手術前に患者に会いませんでした。忙しかったのかも知れませんが,もし手術前に患者に会って話をし診察していれば,マーキング忘れに気づくなりして左右を取り違えることがなかったかもしれません。

危ない医師(7)状態が悪いのに「大丈夫ですよ」を連発する医師

危篤状態で回復の見込みがないのに,医師が,家族に心配させないために「大丈夫ですよ」などと言ってしまうことがあります。家族はそのまま真に受けて回復すると信じてしまいますので,その後患者が死亡すると家族にとっては予想外の展開となるので医療ミスを疑われることになります。

厳しい見立てをすれば,助かれば名医といわれ,助からなくても家族に心構えができているので問題になりませんが,本当は助からないのに甘い見立てをして家族に期待を持たせると,かえって医療ミスではないかと疑われトラブルのもとになります。端から見ても危ない状態なのに「大丈夫ですよ」を連発する医師は要注意です。医師は,現在の症状,診断病名の他,予後・処置及び治療の方針についても説明する義務がありますので,患者が大丈夫そうに見えなければ家族は詳しい説明を求めた方が良いです。

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医療コラム『医療事故からどうやって身を守るか?』

医療事故から身を守る患者の心構え(1)医師任せにしない

医療ドラマを見ると,主人公の医師が脳外科も心臓外科も消化器外科も,科を問わずあらゆる手術をこなしてしまうスーパードクターが登場しますが,実際は専門に特化しており何でも分かりどんな手術もできる医師はいません。医師は万能ではなく,専門以外のことはあまり詳しくないのが実情ですから,医師はなんでも知っていると思うのは大きな間違いです。また,専門分野であっても先入観を持ってしまいミスをしてしまう医師もいれば(ケース(1),ケース(2)),知識や経験がないのに診療を丸投げにされている研修医(ケース(6))やベテランなのに患者を診察しない医師もいますから(ケース(7)),患者が医師に全て任せきりにするのはとても危険です。自分の身を守れるのは自分しかいないという心構えで積極的に病気と向き合うことが大切です。

医療事故から身を守る患者の心構え(2)病気を知る

医師にお任せにしないためには,自分や家族の病気を知ることが大切です。

体調不良で病院に行くと医師に症状を伝えますが(問診と言います),緊急の処置が必要な病気なのに外見上重症感がないとか,夜間外来で専門外の医師や知識・経験の少ない研修医が当直医ですと,見落とされ手遅れになる可能性があります。そんなとき,患者に病気の知識があって典型的な症状をキーワード(例えば「前胸部の締め付けられるような痛みの持続」は急性心筋梗塞の典型症状です)を使うなどして上手に伝えられれば気が付いて貰えるかも知れません。

入院して外科手術を受ける場合は,事前に手術説明があり手術同意書に署名押捺が求められますが,患者に治療方法や手術を受けた場合あるいは受けない場合のリスク,複数の治療方法があるときは各々のメリット・デメリットなどの知識が全くないと医師から説明をされても理解できないため,治療を受けるか否か,受けるとしていつ受けるか,どの方法を選択するか全て医師に言われるがままとなり失敗されたとき後悔することになります。

不幸にも医療ミスが起きても,医学の知識がまったくなければミスだと気が付かずに終わってしまい本来受けられたはずの正当な補償を受けられない可能性もあります。

医学のことは難しくて分からないと最初から諦めてしまうのは,もはや時代遅れです。テレビ,新聞雑誌,インターネットなどに一般人向けの分かりやすい医学情報が溢れており,調べようと思えば容易に調べられる時代です。もちろん情報を取捨選択する必要がありますが,少なくとも自分の持病や,祖父母親兄弟に多い病気(家族歴と言います)についてはいざという時のために日ごろから典型的な症状,治療方法,複数の治療方法があるときは各々の方法のメリット・デメリットやリスクなどを調べておくべきです。

少し注意すれば防げたような医療事故は敵(病気)を知って己(持病・健康状態)を知れば,百戦危うからずとまでいかなくても,医師にお任せにするよりは格段に事故を防げるでしょう。

医療事故から身を守る患者の心構え(3)我慢しない

患者の顔を一目見ただけで病名が直ぐ分かる,というのはテレビドラマや映画の中だけの話です。患者の見た目が元気そうで重症感がないとか,病気に典型的な症状が揃っていないなどの場合,本当は直ちに入院加療が必要なのに医師が異常なしと判断して帰宅させてしまい手遅れになることが少なくありません。一般に,体調が本当は酷く悪いのに病院に行くと緊張するのか元気そうに振る舞ってしまったり,医師に「大丈夫です。」とか「良くなってきました。」などと心にもないことを言ってしまうことがありますが,これでは自分で自分の身を危険にさらすようなものです。医師に病気を見落とされないためには,とにかく我慢しないことが大切で,自分の症状を正しく医師に伝える努力をしなくてはなりません。こと病気については我慢強い方が損をすることが多く,多少大げさなくらいが丁度良いかも知れません。それでも医師から異常なしと言われてしまったときは,自分の体調がいつもと明らかに違い異常だと分かるのは本人だけですから,普通ではないと感じたら例え医師に緊急性がないと言われても鵜呑みにせず入院を強く要請するとか,専門病院を受診するとか,帰宅後症状が悪化したときは救急車を呼ぶなどするべきです。

折角手遅れになる前に病院にかかったのに医師に症状を上手く伝えられず病気を見落とされ,自分の直感を無視し我慢したばかりに命を落としてしまう医療事故は後を絶ちませんが,直ぐ治療していれば助かっていただけに本人にも遺族にも悔いが残ります。

■医療事故から身を守る患者の心構え(4)コミュニケーション力を磨く

入院中の場合,原疾患と異なる病気の発症(ケース(6))や術後管理不足(ケース(7)),看護不足(ケース(3))から患者が急変したのに医師や看護師に見落とされ命を落とすケースがあります。この場合,患者や患者の家族が自力で医療事故を防ぐのは難しいですが,常日頃医師・看護師と良好なコミュニケーションをとり,定期的に診療経過の説明を求め,説明が分からなければ患者側から積極的に質問し診療について共通認識を持てるようにすることで患者が放置されることは防げる可能性があります。病院は少ない人数で多数の患者を診ているので意図していなくても結果的に患者が放置されることは避けられないことですが,良好なコミュニケーションをいつもとっている患者家族は医療従事者から自ずと関心を持たれ異常に気が付いて貰える確率は高まるでしょう。

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医療コラム『どのような医療事故があるか?(7)ベテラン医師による医療事故』

高齢者は放置!?術後管理不足により死亡した事件

患者は80代女性,胆のう摘出術を受けた後ショック状態に陥りましたが放置され処置の遅れから死亡した事件です。

患者は,胆のう結石症による胆のう炎の診断で相手方病院に入院し,腹腔鏡下胆のう摘出術を受けました。術後,呼吸状態が悪く尿量も少なく収縮期血圧が60台に低下し患者はショック状態に陥っていましたが,看護師が何度主治医にドクターコールをして報告しても,主治医は患者を診察せず,ショックに対する措置は講じられませんでした。患者はショック状態に陥ってから20数時間放置され,患者家族が見舞いに訪れたときにはナースステーションから最も遠い病室に置かれ低血圧でモニターのアラームが部屋中に鳴り響いている状態でした。家族は,看護師に直ぐに救急措置を実施するよう何度も求めましたが,看護師は「先生に報告しています。」と答えるのみで何の処置もされず1時間半ほどしてようやく医師が昇圧剤の点滴を開始しましたが患者の呼吸状態は更に悪化し下顎呼吸となり,家族はこの病院に置いておいては患者を死なせてしまうと考え,家族の要請で大学病院の救命救急センターへ緊急搬送されました。転院時,患者は腹膜炎による敗血症性ショックに播種性血管内凝固症候群(DIC)を併発した重篤な状態に陥っており,後医で手厚い治療を受けましたが敗血症により亡くなりました。

専門医に過失調査を依頼

患者家族は,患者が治療目的で手術を受けたのに,腹膜炎による敗血症性ショックにDICを併発した状態になるまで放置され処置の遅れから死に至らしめたことに憤り,相手方病院に対し,術後管理義務違反を理由に損害賠償を請求しました。これに対し,病院側は,過失を否定したのみならず,患者はもとから重篤な胆のう炎があり,術後の対応の如何に関わらず敗血症による死亡は避けられなかったと主張して治療行為と死亡との因果関係も否定しました。そこで第三者である消化器外科の専門医に腹腔鏡の手術動画,病理解剖報告書を含む全ての診療記録を調査して頂いたところ治療行為に不適切な点があるのみならず不適切な治療と死亡との間の因果関係も明らかという結果が得られました。調査のポイントは,(1)手術に手技上の過失はあったか,(2)術後管理に問題はあったか,(3)術前に重篤な胆のう炎が存在したかの3点です。専門医の意見は,相手方医師は手術操作の際,胆のうを穿孔し膿性胆汁を流出させてしまいましたが,これ自体は手術の合併症であって手技上の過失ではないが(1),その後の洗浄不足・ドレナージの不備,及び,術後管理不足が過失であり(2),術前には病院が主張するような重篤な胆のう炎は存在せず,適切な術後管理がなされていれば患者が死亡することはなかった(3)という結論でした。

紛争を大きくする病院ないし病院弁護士

第三者である消化器外科医による医師意見書を提出し,相手方病院の説得を試みましたが,病院側は過失・因果関係を認めなかったばかりか,こともあろうに,転院させなければ救命出来た可能性が十分あったのに転院先の救命救急センターの治療が不適切だったせいで患者は死亡したと反論してきました。術後患者が危篤状態に陥ったのは自分たちの診療行為が原因なのに,治療が難しい患者を引き受けてくれた後医に医療過誤の責任を転嫁するとは信じがたい暴挙です。そのようなことをすれば,以後後医である大学病院は,相手方病院からの患者依頼を引き受けてくれなくなることが分からない病院あるいは病院弁護士は愚かとしか言い様がありません。医療事故で紛争を大きくするのは,実は病院や病院弁護士であることを示す良い例です。

■示談までに3年以上

相手方病院が,過失・因果関係を認めないため,更に第三者である複数の消化器外科の専門医に再反論の医師意見書を作成頂いたほか,後医である救命救急センターの医師に医療照会(患者の病状に関する質問書を送り回答を依頼すること)を行い医療照会回答書を作成して頂いて相手方病院へ提出したところ,交渉に3年以上かかりましたが最終的には3000万円で示談することができました。

この事件で裁判を回避し示談による円満な解決に至った決め手は,第三者である消化器外科の専門医の医師意見書と後医である救命救急科医師の医療照会回答書でした。医療事件は素人が手ぶらで闘っても交渉は上手くゆきませんが,専門医による詳細な過失調査を経て医学的問題点を明らかにすることにより早期円満解決に繋がることが多いです。同業者から誤りを指摘されるのが一番辛いといえましょう。

示談に3年以上かかっているのにどこが早期解決だと叱られそうですが,医療事件では交渉に3年かかることは珍しくありません。特に損害賠償額が高額になるほど時間がかかります。示談交渉が不調に終わった場合,提訴して裁判に2〜3年かかることを考えれば3年かかっても示談がまとまれば早期円満解決と言っても許されるのではないでしょうか?

高齢者は見殺し?

法律相談で,遺族から高齢の親が病院で見殺しにされた,というご相談を受けることが多いです。老衰で亡くなっており医療過誤とは言えない場合が殆どですが,中には患者が高齢者であるために放置されたケースもあります。本件のように,高齢の患者であっても手術をするということは生かす目的の治療ですから,術後管理は患者の年齢にかかわらず適切に行う必要があります。本件患者の看護記録には,看護師が主治医にドクターコールをし,血圧が60台に低下し尿量が少ないと報告したところ医師が「『もうそのままだね』と答えて指示を出さなかった。」とあり,数時間後,再度看護師がドクターコールして血圧60mmHg/30mmHgで声をかけても反応がなく尿が出ていないと報告しましたが,「『あとで行くから』と答えて指示を出さなかった。」と記録されており,主治医が患者の治療を放棄していたことが分かります。医師が,患者の状態が悪くなったことを知りながら診察をしないのであれば,なんで手術をしたのかと思います。手術をして治療費を得るのが目的だったのでしょうか。看護師は,医師の態度がよほど腹に据えかねたのか看護記録に記録を残しましたが,看護師も患者がショック状態に陥っており救命措置が必要であることを知りながら主治医に報告しただけで何の措置も講じず患者を放置していますので,患者を看護すべき注意義務に違反しているといえます。           

患者が高齢者の場合,本当はあってはならないことですが,現実には医療従事者の中に高齢だから亡くなっても仕方ないという暗黙の了解のようなものがあり放置するケースがあります。高齢の患者にとっては恐ろしい話ですが,放置されないためには,患者や患者の家族が医師・看護師とできる限りコミュニケーションをとり,入院加療の目的が「看取りではない」ことをはっきりと伝えることが大切です。

主治医についての後日談

本件の主治医は,事故当時外科部長の立場にありベテランの医師でした。事件の解決の為,複数の消化器外科医に過失調査と医師意見書の作成を依頼したのですが,相談した医師の中に偶々本件の主治医を知っている医師がいました。どんな医師か尋ねたところ,若い頃は仕事熱心な優秀な外科医だったと言われました。そんな医師がなぜ患者の診療を放棄する医師になってしまったのかと残念に思いました。

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医療コラム『どのような医療事故があるか?(6)研修医による医療事故』

脳塞栓症再発の見落としにより死亡した事件

患者は脳梗塞で入院中脳梗塞を再発しましたが,主治医の研修医が見落とし処置の遅れから脳ヘルニアにより死亡した事件です。

患者は60代男性,脳梗塞・心房細動・高脂血症の既往があり相手方病院に定期通院しワーファリンによる抗凝固療法を受けていましたが,自宅で脳梗塞を起こし相手方病院へ救急搬送されました。患者は,受診時,右共同偏視,左片麻痺があり,MRI検査で右中大脳動脈閉塞による右大脳半球の広範囲な梗塞が認められ,心電図上心房細胞が見られたことから心原性脳塞栓症の診断で神経内科へ入院となりました。入院中ワーファリンは投与されず,患者は順調に回復していましたが入院1か月ほどしたある日,看護師が来室すると意識不明の状態に陥っており右麻痺や呼吸状態の悪化が出現していました。主治医の研修医が指導医に相談したところ,指導医は直接患者を診察することなく主治医の話のみから症候性てんかんの疑いと判断し,主治医が経過観察にしていたところ患者は24時間後病室で心肺停止状態になっているところを看護師に発見され間もなく死亡しました。

死亡原因を調べるため頭部CT検査を実施したところ,左大脳半球に広範囲な梗塞巣が認められ,正中偏位著明で左側脳室・脳溝が消失した脳ヘルニア所見が認められ脳ヘルニアのため呼吸停止に至ったことが判明しました。

脳ヘルニアで死亡した原因

脳は,脳梗塞などの病変により脳浮腫(むくみ)を生じますが,頭蓋骨で囲まれスペースがないため脳腫脹が進んで頭蓋内圧が亢進すると脳組織が隙間に向かって押し出されます。組織が押し出された状態をヘルニアといい,脳組織が呼吸中枢を圧迫すると死に至るため見落としてはならない重要な病態とされます。

第三者である脳外科医に本件の過失調査をお願いしたところ,患者の脳ヘルニアは,左内頸動脈へ心原性脳塞栓症を生じたが,医師が症候性てんかんと誤診し治療・患者管理を誤ったため急速に脳腫脹を生じたことが原因とのことでした。通常,脳塞栓症発症後の脳腫脹は3〜5日後にピークとなりますが,本件では発症翌日に脳ヘルニアに至りました。通常より悪化が早かったのは,脳浮腫対策や呼吸管理が行われなかったことが原因です。主治医は,脱水状態と考えて点滴量を多めにしたのですが,脳浮腫対策を考えると逆に点滴を少量にし,グリセロールなど頭蓋内圧を下げる点滴を行う必要がありました。また患者が呼吸不全に陥っていたのに酸素が投与されず,舌根沈下に対する気道確保も行われませんでした。そのため換気量不足から血中二酸化炭素が増え脳腫脹を加速させたのでした。

■どのような過失があるか(1)主治医の検査・診断義務違反

主治医は,患者を入院させた後,抗凝固療法(ワーファリン投与)を実施しなかったのですから患者の症状から当然脳梗塞再発の可能性を考え,CT検査で脳出血でないことを確認したら症候性てんかんと脳梗塞再発を鑑別するためMRIの拡散強調画像(DWI)撮影を実施して脳梗塞の診断をなし,脳浮腫対策・呼吸管理等の治療を直ちに開始すべきでした。

ところが主治医は,患者の脳梗塞再発の症状を見落とし,鑑別に必要な検査を実施せず,症候性てんかんの疑いのまま経過観察とし患者を死に至らしめてしまいました。

■どのような過失があるか(2)研修医の指導医の監督責任

医学部卒業後2年間は,研修医は臨床研修プログラムに沿って各科をローテ−ションします。本件の主治医は,卒業後2年目で,神経内科に配置されたばかりの知識も経験も少ない研修医でしたが,診療録によると回診や病状説明に指導医が立ち合うこともなく患者の診療は研修医にほぼ丸投げの状況でした。患者は重篤な状態にあり指導医は主治医と一緒に患者の診察に当たるべきでしたが指導医は患者が脳梗塞を再発し急変した後も直接診察することはありませんでした。このような場合,研修医一人を責めるのは正しくなく,指導医・科長・院長が臨床責任を負うべきと考えます。

どのような過失があるか(3)看護義務違反

患者は,看護師に心肺停止の状態で発見されました。患者はモニター(心拍監視装置)を装着中でしたので徐脈になった時点でアラームが鳴ったはずですが,看護師がアラームを切っていたかアラームを無視したかのいずれかにより心肺停止に気付かず,心肺蘇生措置の遅れが原因で心肺再開を得られませんでした。           

仮に看護師の過失がなく,直ちに蘇生できたとしてもこの時点では数日程度の延命しか期待できませんでした。しかし患者家族にとって,たとえ数日であっても延命できるか否かは大問題です。            

医療従事者は,どうせ助からないからと放置してはならず,もし自分の家族だったらという気持ちを忘れないでいて欲しいものです。

どのような過失があるか(4)説明義務違反

本件では,出血性梗塞,脳塞栓症再発の危険,それらに伴って死亡する危険性があることを患者家族に十分説明する必要がありましたが診療録には一切記載が無く説明が不十分であったと思われます。また知識も経験も浅い研修医では患者家族が納得する説明をするのは難しく,指導医が立ち合って説明を補足する必要がありましたが指導医は立ち合いませんでした。しかも,脳梗塞を再発して急変した後も,患者が死亡した後も家族に十分な説明がなされず,診療録にも記載がありませんでした。

このような医師らの対応が,患者の家族に不信感を与え,紛争に繋がるきっかけとなった可能性は否めません。

交渉経緯

この事件は当初別の弁護士が示談交渉を行っていましたが上手くいかず患者家族の依頼を受け途中から受任しました。患者が亡くなった後,主治医が患者家族に対し,「ワーファリン投与を忘れていた。」と説明したため,家族も前任の弁護士も入院中ワーファリンが投与されず脳塞栓症を再発させたのが過失だとして病院側と争っていました。

しかし,ワーファリンを投与しなかったことは過失ではなく,争点を間違えたため交渉が上手く進まなかったのでした。本件では,出血性梗塞を生じるリスクがあり,また入院中肝機能障害もみられたことからワーファリンを中止したことは正しい判断でした。ただし,主治医である研修医は,そのように判断してワーファリンを投与しなかったのではなく,全く念頭になかっただけだったようです。もし出血のリスクや肝機能障害が理由でワーファリンを投与しないのであれば,医師は患者家族に対し,ワーファリンを投与しない理由,及び,投与しないことにより脳梗塞を再発する危険性を説明すべきでしたが説明はなされませんでした。

病院側は,当初,重症の脳梗塞に致死的脳梗塞が続発しており直ちに抗脳浮腫対策を実施しても救命は不可能だったとして一切の過失を否定していました。しかし,第三者である脳外科医の医師意見書を提出の上,上記病院側の過失を指摘したところ,患者家族への説明が不十分であったと説明義務違反の点を認め慰謝料500万円で示談に至りました。

医療事故を巡り病院側と多くの示談交渉を経験して思うのは,紛争を裁判にせず早期円満に解決するうえで,同業者からの指摘が最も重いということです。第三者である専門医が診療記録・画像記録等に基づき丁寧に分析調査して作成した医師意見書は説得力があり,病院側が調査結果を真摯に受けとめ示談がまとまることが多いです。

医療事故のケースで患者側に協力してくれる専門医を見つけるのは容易なことではありません。患者家族に協力すると医師同士で非難される場合もあるでしょう。しかし,患者・病院どちらの味方という発想ではなく,医療紛争を早期円満に解決できるのは医師しかいないことを医師にご理解頂き積極的に協力くださることを願ってやみません。

同業者から見て明らかな過失を過失であると明確に指摘することが事故の再発防止に繋がり,より良い医療の維持発展に役立つと考えます。

脳卒中,脳梗塞と脳塞栓の違い

脳梗塞・脳出血・くも膜下出血など脳血管の異常で起きる病気を脳卒中といいます。脳梗塞には,脳血栓と脳塞栓があり,脳血栓は脳血管に生じた血栓により脳血流障害が生じるもの,脳塞栓には,心臓にできた血栓が脳血管を閉塞する心原性脳塞栓症と内頸動脈などの血栓が脳血管を閉塞する動脈原性脳塞栓症があります。

心房細動,弁膜症や心筋梗塞など心臓に病気を持っている人は心臓に血栓ができやすいことが知られており血栓が心臓から出て脳血管を詰まらせると脳塞栓起こします。そのため,予め血液をさらさらにするワーファリンなどの薬を服用し血栓の発生を防ぎます。

本件の患者も心房細動の持病がありました。

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医療コラム『どのような医療事故があるか?(5)検査中の腸穿孔事故』

注腸造影検査中の腸穿孔事件

患者は50代男性,勤務先の定期健康診断で便潜血反応が陽性となり,大腸癌の精密検査を受ける目的で相手方病院を受診し,注腸造影検査を受けることになりました。注腸造影検査は,肛門から細い管を入れ造影剤(バリウム)と空気を注入し大腸の輪郭をレントゲンで撮影し腸壁の変形など異常がないか調べる検査です。診療放射線技師が肛門から管を入れる際,大腸を穿孔し大腸に入れるはずのバリウムを骨盤内へ注入してしまいましたが,技師も検査後レントゲン写真を見た医師も大腸を穿孔してバリウムを骨盤内に注入したことに気付かず患者をそのまま帰宅させました。患者は,技師が肛門から管を挿入したときから激痛が続いていましたが,注腸造影検査を受けたことがなかったのでこんなものかと我慢して帰宅したのですが,痛みは増すばかりで眠れない夜を過ごしたそうです。翌日救急搬送された患者は,バリウムによる急性汎発性腹膜炎を起こしており,直腸切除及び人工肛門造設の緊急手術となりました。

穿孔性腹膜炎の内,注腸造影検査により生じるバリウム腹膜炎は最も重篤で腹腔内へ漏出したバリウムは腹膜全体に付着し細菌感染を助長するため予後が不良で,死亡率22.0%と報告されており(1)~(3),患者が手遅れにならずにすんだのは不幸中の幸でした。九死に一生を得た患者でしたが,もし,患者が検査の後,痛みを我慢しないで医師に痛みを訴え原因解明を強く求め,時間を置かずに腸穿孔によるバリウムの骨盤内注入が発見されていれば,症状も後遺障害もより軽かった可能性があります。本件は,患者が,我慢強かったばかりに損をしてしまいました。こと病気に関して患者は,多少大げさなくらいが丁度良く,痛みや異常は患者が医師にはっきり伝えないと見落とされ手遅れになる危険があることに注意が必要です。

(1)清水輝久,下山孝俊,中越享他:バリウム腹膜炎症例の検討,腹部救急診療の進歩8:419-422,1988(バリウム注腸造影検査により生じたバリウム腹膜炎9例の報告)
(2)池沢輝男,長谷川洋,前田正司他:Barium Peritonitisの2治験例,日臨外会誌44:1477-1482,1983(注腸造影の際,直腸憩室を穿孔しバリウム腹膜炎を生じた症例,及び,胃透視の際,十二指腸球部前壁を穿孔しバリウム腹膜炎を生じた症例)
(3)安藤勤,大塚敏広,原田雅光他:転移性肝癌と鑑別が困難であった炎症性肝肉芽腫の1例,日臨外会誌62:1481-1486,2001(バリウム注腸造影検査で腸穿孔しバリウム腹膜炎を発症,バリウムが肝内へ侵入し炎症性肝肉芽腫を生じた症例)

注腸造影検査で穿孔を生じる原因

注腸造影検査で腸管穿孔を生じる原因は,大腸穿孔では,注腸造影時のカテーテルの先端による腸管壁の直接損傷や,バリウムや空気による腸管内圧の上昇によるものが殆どとされます。胃透視後の大腸穿孔では,大腸癌・大腸憩室等の基礎疾患が存在し腸管壁が脆弱な場合や,硬いバリウム糞便塊の停滞・通過に腸管内圧上昇が加わった場合に起こることが多いとされます(1)。 

実は珍しくない?消化管穿孔事故

医学文献を調べると検査の際の消化管穿孔は稀だと書かれていますが,医原性疾患(診療行為が原因で発生した病気)なので報告されることが少ないだけで,実際は稀と言うほど珍しくはないようです。過去の裁判例でも大腸内視鏡検査で医師が大腸を穿孔したケース (1),看護師が高圧浣腸した際大腸を穿孔したケース(2) ,腸内に滞留したバリウムでS状結腸に穿孔を生じたケース(3)等があり,いずれも患者が勝訴しています。
(1)神戸地裁判決平成16年10月14日: 国際線の機長(50代男性)が定期検診の大腸内視鏡検査の際,医師の過誤により大腸に穿孔を生じ,治癒して復職しましたが航空会社の内部規制により国際線乗務が禁止され減収を来たしたケースで,高額の逸失利益認められ損害賠償金4989万9528円が認容されました。
(2)高松高裁判決平成19年1月18日:患者は60代女性,看護師が大腸検査の前処置として高圧浣腸をした際,手技上のミスで大腸に穿孔を生じ人工肛門造設を余儀なくされたケースで,損害賠償金2928万9511円が認められました。
(3)大阪高裁判決平成20年1月31日:患者は60代男性,胃透視検査後,腸内にバリウム便が滞留しS状結腸憩室壁が穿孔したケースで,損害賠償金404万3421円が認められました。このケースでは後遺障害が否定され,また憩室はもともと穿孔の危険性が高いとして患者の身体的素因が考慮され損害額全体から30%減額された結果,賠償額が低くなっています。
【註】憩室:腸管等の臓器の壁がポケット状に落ち込んで生じた部分をいい,その発症頻度は加齢と共に上昇し,高齢者では左右大腸に発生するなど多発例が増加する。多発するものを憩室症というが,憩室症が特別な症状を示さず,特に治療の対象とならない場合も多い(判決文より引用)。

事件の特殊性と問題点

患者は,大腸癌の精密検査を受ける目的で注腸造影検査を受けたのに事故に遭ったため結局検査を受けることができませんでした。穿孔した腸管から骨盤内に注入されたバリウムは大量の温生理食塩水による腹腔内洗浄を行いましたが,完全には除去できず一生残るためレントゲン検査もCT検査もできなくなりました。バリウムの影響で検査を実施しても全体が白く写って骨盤内の状態を観察することができないからです。また,異物であるバリウムは強い炎症性変化を引き起こすため骨盤内炎症が治ることなくその影響で腸管が狭窄し内視鏡検査もできなくなりました。癌の精密検査目的で受けた検査でしたが,検査中の事故のせいで,今後癌を始め疾病の早期発見ができなくなってしまったのです。

更に,将来癌になっても残留バリウムによる骨盤内炎症の存在で創傷が治らないため手術は困難であり,患者は将来の不測の事態への不安を感じながら生きていかなければならなくなりました。

不測の事態を金銭的に評価することができないため,示談交渉では,病院に対し不測の事態が起きた場合の治療保証条項を和解書に入れるよう要請しましたが病院が応じず,やむなく示談成立後不測の事態が生じたときは別途協議する旨の条項を和解書に入れるよう要請しましたが,それにも病院が応じなかったため,現時点で算定可能な賠償額で示談せざるを得ませんでした。

このような示談をしても,示談当時予想できなかった再手術や後遺症が後日発生した場合には,被害者はその損害賠償を請求できるとする判例がありますが(最高裁昭和43年3月15日判決),不測の事態が起きたとき患者が裁判を起こさなければならないのは大変な負担ですので,事故を起こした病院の誠実な対応が望まれます。

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医療コラム『どのような医療事故があるか?(4)夜間救急で助かるかは運次第!?』

夜間救急外来で不安定狭心症が見落とされ翌朝心筋梗塞で死亡した事件

患者は50歳男性,働き盛りのサラリーマン,数日前から胸痛・背部痛を覚えるようになり,痛みが酷くなったため仕事帰り,夜間救急病院を受診しました。当直医はベテランの外科医で,患者の症状から心筋梗塞と大動脈解離を疑い心電図,胸部レントゲン,胸腹部造影CT,血液検査を実施しました。CT検査の結果,大動脈解離を示唆する所見なく,心電図検査の記録紙に異常の心電図ST−T異常と印字されていましたが,医師は心筋梗塞に特徴的な波形が見られなかったことから緊急性がないと判断し患者をそのまま帰宅させました。患者は帰宅後も胸痛を訴えていましたが,医師から心筋梗塞ではなく緊急性がないと説明されたため我慢していたところ,翌朝,ベッドの脇で上体をのけぞらせた状態で死亡しているのを家族に発見されました。解剖の結果,死亡推定時刻は午前4時ころ,死亡原因は急性心筋梗塞でした。

■不安定狭心症は心筋梗塞の一歩手前の状態

病院が,外科医の診断に問題はなかったと過失を争ったため,第三者である循環器科医に診療録と検査結果を分析して貰ったところ,心電図の異常は明らかで患者は救急外来受診時,不安定狭心症という心筋梗塞の一歩手前の状態にあり,外科医が循環器科医に連絡し入院させるか,循環器専門病院へ転院させていれば患者を救えたことが分かりました。

病院は,第三者である専門医の医師意見書の内容を真摯に受けとめ,過失・因果関係とも認めたため遺族との間に示談が成立しました。

■狭心症と心筋梗塞の違い

心臓は,周囲を冠動脈という心筋に酸素や栄養素を供給する血管で取り巻かれています。狭心症は、冠動脈の血管が狭くなり心臓へ送る血流量が少なくなって心臓が一時的に酸欠状態となって胸痛発作を起こすものです。心筋梗塞は、冠動脈の血管が完全に閉塞して,心筋が壊死してしまう状態で胸骨下部ないし左前胸部を中心とした激烈な疼痛が30分から数時間持続します。

急性心筋梗塞の死亡率は30%程で大半は病院へ到着する前に死亡しますが,病院へ到着できた症例の死亡率は10%未満とされます。

この事件の患者は,心筋梗塞になる前に病院に到着していますから,当直医が不安定狭心症の診断を誤らず入院させ適切な治療をしていれば患者は死なずにすんだのです。

狭心症にもいろいろある!?

狭心症の診断で重要な点は,直ちに緊急処置が必要な不安定狭心症の鑑別診断です。安定狭心症は,狭心症発作の誘因や頻度が変化せず,一定以上の労作で生じる狭心症で緊急性はありません。これに対し,不安定狭心症は,狭心症発作の誘因が変化し頻度が増すなどの増悪性変化を認め,急性心筋梗塞や突然死に至る可能性が高い重症の狭心症で入院が原則です。

この事件の患者は受診時不安定狭心症の状態ですから,診察した当直医が循環器科医に相談するか循環器専門病院へ転院させていれば命が助かったのですが,当直医は,急性心筋梗塞と連続線上にある不安定狭心症が全く念頭になく,心筋梗塞ではないから緊急性がないと誤った判断をして患者を帰してしまいました。

患者がもし自宅で救急車を呼んでいたら助かっていたかも知れません。しかし,当直医から緊急性がないと告げられたため,痛みを我慢してしまいました。夜間救急病院を受診したことで救急車を呼ぶチャンスを奪われる結果となりました。

■患者になったときのポイント!

当直医のベテラン外科医は,若いときに不安定狭心症を勉強したはずですが,専門外の事に疎くなるのが世の常で,すっかり忘れていたようです。一般の方は,医師ならなんでも知っていると思いがちですが,専門外のことは殆ど知らないと考えたほうが良いです。ですから,医師にお任せにしてはいけないのです。自分の身を守れるのは自分だけですから,未だかつて経験したことのないような異常を感じたら自分の直感を信じ,医師に遠慮をしないで入院や転院を希望するなり救急車を頼むなりした方が良いです。

本当は体調が酷く悪いのに診察のとき緊張しているためか医師に「大丈夫です。」などと言ってしまいがちですが,顔を見ただけで病名が分かる医師は映画やテレビの中だけで,実際は重症感があるとか,典型的症状を訴えるなどしないと重大な疾患が見過ごされてしまいます。診察のときは,大げさなくらいが丁度良く,我慢をしないで症状を伝える努力をすべきです。もし持病があれば日ごろから典型的症状を調べておいて,診察のとき伝えられれば医師の見落としは減るかも知れません。

直感を信じることの大切さ!

循環器疾患の医療ミスのケースで,もう一つ患者が直感を信じていたら助かっていた事件を紹介します。患者さんは50代男性,メタボ体型でしたが健康に対する意識は高く,毎年一泊二日の人間ドックを受診していましたが循環器の異常を指摘されたことはありませんでした。患者は,最後の検査から11か月後に心筋梗塞で死亡しました。不信に思った家族が人間ドックの検査結果と心電図を取り寄せ第三者である循環器科医に調べてもらったところ,3年前から毎年心電図の異常が見落とされていたことが分かりました。協力医によれば,患者が精密検査を受け経皮的冠動脈形成術,ステント留置術などの治療を受けていれば心筋梗塞で死ぬことはなかったとのことでした。家族の話では患者は亡くなる数日前から胸痛が続き,前胸部の重い感じ,背部痛があり肩もこると訴えていましたが人間ドックで毎年循環器は異常なしと診断されていたのでまさか心筋梗塞になるとは夢にも思わなかったそうです。家族は,人間ドックで異常なしと診断されたことで,患者が循環器科を受診する機会が奪われたことを悔やんでおられました。

患者本人も,異常を感じていたようですが,人間ドックで異常が指摘されなかったことで循環器に問題は無いという先入観を持ってしまったことが不幸な結果に繋がりました。大切なのは,自分の直感を信じることです。たとえ人間ドックで正常と診断されても,異常を感じたら放置せず専門の医療施設で精密検査を受けたほうが安心です。精密検査の結果,異常がなければ安心して過ごせますから無駄にはならないのではないでしょうか。

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医療コラム『どのような医療事故があるか?(3-補足)看護師のうっかりミスによる医療事故』

看護師のうっかりミスで寝たきり状態に!

新聞に報道された看護師のうっかりミスを紹介します。患者は74歳女性,地方の病院でうっ血性心不全及び弁膜症と診断され,治療目的で都内の大学病院心臓血管外科に入院しました。患者は,強心剤を持続投与する必要があり点滴注射がされていました。来室した看護師が,強心剤の残量が少なくなっているのに気が付き,点滴の交換をしようと点滴装置の残量不足を知らせるアラームのスイッチを切ってアラームを鳴らなくしたのですが,他の用事で点滴を交換するのを忘れてしまい強心剤の投与が数十分間中断してしまい患者は,低血圧によるショック状態に陥り心臓の機能が更に低下し寝たきりとなってしまいました。 

■病院の対応−新聞の読み方

新聞には,患者家族は,「病院は点滴の電源を切ったことは認めており,過失は明らかだ」として損害賠償請求訴訟を起こす方針で,業務上過失傷害容疑での刑事告発も検討中(日経新聞平成28年6月10日),と書かれていました。このことから事故後,病院側が患者に対する損害賠償を拒否していることが分かります。病院側が,患者さんに損害賠償をするつもりがあれば示談交渉を進めるので訴訟(裁判)を起こすという話になりません。訴訟を起こす方針と言うことから病院側が示談交渉に応じず患者家族に裁判をやるならやってみろといった対応をしていることが窺えます。更に,刑事告発も検討中ということは,病院ないし病院が頼んでいる弁護士の患者家族に対する対応がよほど酷いことが推測されます。病院側,医師・看護師らが患者家族に謝罪し真摯に対応していれば,通常医師や看護師を刑事告発するということにならないからです。

ですから,新聞に明らかな医療ミスなのに患者家族が損害賠償請求訴訟を起こす方針と書いてあったら病院側が医療ミスを争っていることが分かり,刑事告発と書いてあれば相手方病院は医療ミスを起こしても患者家族に補償せずかなり酷い対応をしていることが分かります。もっとも,患者側弁護士に問題があって裁判になることはあります。

■本件のポイント!

この事件で,病院は,看護師が点滴の電源を切ったことは認めています。病院に過失があるのは明らかなのになぜ患者家族は損害賠償請求訴訟を起こさなければならないと思いますか? 

このようなケースで病院は,過失は認めるけれど発生した損害と過失との間に因果関係がない,つまり患者さんが寝たきりになったのは点滴の中断が原因ではないから損害賠償責任を負わないと説明しているものと考えられます。

医療裁判では,患者側が病院側の過失の具体的内容及び発生した損害と過失との因果関係の両方を立証しなければならず,立証責任を負っている方が立証できなければ負ける仕組みになっています。逆に言えば,損害賠償請求可能な法的意味での過失とは,発生した損害(死亡や後遺障害等)との間に因果関係のある過失のうちで立証可能なものと言えます。ですからたとえ病院が医療事故を起こしても寝たきりになった原因と全く無関係なら補償は受けられない可能性があります。

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医療コラム『どのような医療事故があるか?(3)よくある!?気管切開患者の入院中窒息死B』

入院中の窒息死事件B−救急対応できない医師!

気管切開を受けた患者の痰が硬く吸引できない状態が続き,看護師の痰吸引中カニューレが痰で閉塞し,看護師が医師を直ぐ呼んだが医師の処置の遅れから植物状態になった事件です。患者は,70代男性,悪寒・発熱を訴え受診し髄膜炎の診断で声帯不全麻痺が見られたため気管切開を受けました。看護記録を見ると「痰が硬くて吸引できない」,「痰詰まりに注意」と連日書かれ,次第に患者が呼吸困難を訴えるようになり痰の貯留・気道狭窄を示す異音が聴取されている様子が記録されていますが,なんの対策もとられず,気管切開術後7日目,看護師が痰吸引をしたところ痰の塊がカニューレに詰まり窒息してしまいました。看護師は直ぐ当直医を呼びましたが,当直医は気管切開術後7日目だったためカニューレ交換に自信がなく,副直医を呼びました。副直医も直ぐ来室しましたが,やはりカニューレを交換する自信がなく上級医を呼びました。医師が3人揃って5分後に患者の呼吸が停止し心臓マッサージが開始されましたが,カニューレを抜去したのはそれから20分後で,患者は心肺蘇生しましたが低酸素脳症により植物状態になってしまいました。診療録を見ると,カニューレ交換自体はスムーズに行われており,医師が揃った時点でカニューレを交換していれば患者が植物状態になることはなかったケースです。

事故を起こしたのは総合病院で医師が揃っていながらなんで患者を助けられないのかと思います。最終的には示談がまとまりましたが,この事件でも病院側は当初過失を認めませんでした。

分かっていても何もしない看護師!?
この事件の問題点は,気管切開後の管理不足と救急措置の遅れです。看護記録には痰が硬く高粘稠で吸引しても排出できず痰詰まりによる気道閉塞の危険のあることが何度も記録され,事故前には異音がして看護師はカニューレが狭窄していることを知っていましたが,看護師たちは申し送るだけで何の対策もとらず放置しました。もし,気管切開当初からネブライザーで加湿し痰を柔らかくして排出しやすくして痰吸引を行っていればカニューレが痰で詰まることはありませんでしたし,気管切開術後1週間を経過していたのですから,医師に報告し,腕の良い医師のいる日中にカニューレ交換を実施していれば事故は起きず,当直医たちがパニックに陥って救急対応を誤ることはなかったと考えられます。
患者になったときのポイント!?

本来の病気と全く関係のない痰詰まりで窒息死しても病院は過失を認めず補償もされないのですから,患者自身で身を守るしかありませんが,痰吸引は看護師に委ねられているので患者が自分で出来ることは医師・看護師とのコミュニケーションを良好にすることぐらいでしょうか。ともかく注意すべきポイントは,@痰で窒息死することがあること,A特に,気管切開術後1週間以内が危険であることを忘れず,B痰吸引など気管切開後の看護の重要性を認識していない看護師が多いこと,C緊急対応できない医師や看護師がいることを患者が認識することです。最初に紹介したケースのように,看護師に伝言をしても医師に報告しない場合があることを考えると,もし気管切開術後1週間以内に痰が溜まって呼吸困難を感じるようになったら医師に直接対応をお願いした方が良いでしょう。

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