医療コラム『損害賠償額はどうやって決まるの!?』

日本では損害賠償額が低額!?

医療法律相談を受けると,患者から「医療ミスで大変な思いをしたから慰謝料1億円を請求したい!」などといわれることがあります。しかし,損害賠償額には裁判所の算定基準があり,患者がどんなに辛い思いをしたかとは関係なく,慰謝料は入通院日数や後遺障害等級等により決まります。損害額の算定方法は国により異なり,懲罰的損害賠償といって不法行為に基づく損害賠償請求訴訟で加害者の行為が強く非難される場合,高額の慰謝料を支払わせることで同種の事件の発生を抑止する制度がある国では高額になります。日本には懲罰的損害賠償の制度は存在しません。事故によって生じた損害を填補する賠償額しか認められないのでアメリカ等懲罰的損害賠償を採用している国に比較すると低額です。              

損害の種類

損害賠償と慰謝料を同じように考えている方が少なくありませんが,損害は大きく「精神的損害」と「財産的損害」に分けられ,慰謝料は,精神的苦痛を慰めるために支払われる精神的損害のことです。財産的損害には,事故によって支出を余儀なくされた「積極損害」(治療関係費,入通院付添費用,入院雑費,通院交通費,装具・器具等購入費,家屋・自動車等改造費,葬儀関係費用等)と,事故に遭わなければ得られたであろう利益を失った「消極損害」(休業損害,逸失利益)があります。

損害賠償額には裁判所の算定基準がある!?

損害賠償額には裁判所の算定基準があります。交通事故は頻繁に起こるので交通事故訴訟における損害賠償額の算定基準が作られているのですが,医療事故やその他の人身事故の損害賠償額も同じ算定基準で算出されます。算定方法を知っている人が計算すれば,誰が計算してもほぼ同じ金額になります。損害賠償額は示談でも裁判でも変わりません。例外は,後述の植物状態になった場合です。裁判所の算定基準で算出された損害賠償額が,妥当な補償金額であり,示談交渉の落としどころとなる金額です。患者側は,病院(実際は,病院が契約している保険会社)から裁判所の算定基準による損害賠償額が提示されれば示談します。逆にいえば,病院が裁判所の算定基準による損害賠償額を提示しないと示談できないことになります。損害賠償額が折り合わず裁判になっているケースの多くは,示談交渉段階で病院側が裁判所の算定基準による損害賠償額より大幅に低い金額しか提示しなかった場合です。

植物状態になった場合は,損害賠償額が高額になるため病院が契約している保険会社は示談に応じず,患者側は裁判所の算定基準による損害賠償額を受けるために裁判をせざるを得なくなる場合が多いです。交通事故のケースですが,示談交渉段階の保険会社の提示額が5000万円であったところ,裁判の結果1億6000万円が認められたことがあります。患者の年齢や年収にもよりますが通常の財産的損害及び慰謝料の他,裁判で将来治療費,将来介護費用,介護ベッド・車いす等の将来介護備品代,家屋改造費,介護用車両改造費等が損害として認められると,損害賠償額が1億円以上になります。

医療ミスの損害賠償額は交通事故の場合より少ないことがある!?

裁判所の算定基準で損害賠償額を算出しますが,医療ミスの場合,通常の交通事故の場合に比べ裁判所の認定額が低額になることがあります。医療事件に特有な問題として,患者さんが元々何らかの病気を持っていることが多く,これを既存障害として裁判所の算定基準による損害賠償額から差し引かれる場合があります。病院が契約している保険会社が,合理的根拠がないのに患者に元々重い障害があり医療ミスがあってもなくても働けなかったから休業損害も逸失利益も存在しないなどと主張し僅かな損害賠償額しか提示しないケースが多く,損害賠償額を巡って裁判になることが少なくありません。

医療ミスにより重大な後遺障害を負ったけれど,適切な医療行為がなされたとしても軽度の後遺障害が残った可能性があるという場合も,差額が損害となりますが,過失がない場合の障害の程度は憶測に過ぎませんから,後遺障害等級を何級と評価するかで争いとなります。           

医療ミスの損害賠償額

医療ミスにより死亡又は重い後遺障害等の損害が発生し,医療行為の過失及び過失と損害との因果関係がともに認められるケースでは,患者の生命又は身体を侵害したものとして財産的損害と精神的損害(慰謝料)がともに認められるので賠償額は高額となります。財産的損害は,患者の年齢や年収により大きく異なりますが,収入のない専業主婦でも家事従事者の年収を370万円程と評価し(賃金センサス女性全年齢平均賃金)休業損害や逸失利益が算出されます。慰謝料には,入通院慰謝料(傷害慰謝料),後遺症慰謝料,死亡慰謝料があります。入通院慰謝料は,入通院期間から算出され,例えば6か月入院すると244万円,6か月入院してから6か月通院すると282万円,12か月入院すると321万円程です。死亡慰謝料は,一家の大黒柱は2800万円,母親や配偶者は2500万円,その他独身,子供,高齢者は2000万円から2500万円です。後遺症慰謝料は1級から14級までの等級により金額が決まっています。1級は植物状態のように障害の程度が重いもので2800万円,14級で110万円です。

医療行為に過失があっても発生した損害との因果関係が否定される場合は,損害賠償請求は認められません。しかし,因果関係が証明できなくても患者が死亡時点で生存していた相当程度の可能性,又は,重大な後遺障害が残らなかった相当程度の可能性があれば相当程度の可能性を侵害したものとして精神的損害(慰謝料)が認められます。相当程度の可能性が侵害された場合の慰謝料額は,裁判では200万円から800万円が多いですが1500万円を認めた裁判例もあります。最近の傾向として,過失の程度が著しく,病院側が早期円満解決を希望する場合,1500万円から2500万円余で示談するケースが増えています。

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