医療コラム『医師の説明義務違反による損害賠償額はどのくらい!?』

医師に説明義務違反があっても,説明義務違反のみを理由に訴えるケースは殆どありません。医師に説明不足があっても死亡や重大な後遺障害など損害が発生していなければ損害賠償責任を問えませんし,治療自体は上手くいったけれど医師の説明義務違反により患者が望んだ結果にならなかったという自己決定権侵害に対する慰謝料は低額なため裁判をすると費用倒れになってしまうからです。そのため説明義務違反による損害賠償請求は,医療事故が起きたとき,検査義務違反,手技上の過失,術後管理不足等の医療行為の過失による損害賠償請求と一緒に行うのが通常です。医療事故で過失があれば医療行為の過失による損害賠償責任が認められますが,やむを得ない合併症のような過失がない場合は,医師に説明義務違反があれば説明義務違反による損害賠償責任が認められます。医師の説明義務違反による損害賠償額は,適切な説明がなされていれば患者が治療を受けなかったと考えられるか,適切な説明があっても治療を受けていたと考えられるかで大幅に変わります。

ケース毎に医師の説明義務違反による損害賠償額をみてみましょう。

■医療事故が発生し,医療行為の過失と説明義務違反両方ある場合

医療事故が発生し医療行為の過失と説明義務違反が両方ある場合,医療行為の過失に基づき慰謝料の他,休業損害や逸失利益等全ての損害が認められるので,説明義務違反を問題とする実益がありません。ただ,裁判所は,慰謝料額の認定にあたって一切の事情を考慮するため,医師の説明義務違反の程度が酷いときは慰謝料の増額理由になる可能性があります。

患者や遺族は,裁判で医療行為の過失を証明することが難しいとき,過失が認められない場合に備えて医師の説明義務違反を一緒に主張することが多いです。

■医療事故が発生したが過失はなく,説明義務違反がある場合

医療事故は発生しましたが,例えば手術を実施したところやむを得ない合併症により死亡した等の過失がない場合は,医療行為の過失に基づく損害賠償請求はできませんが,医師に説明義務違反があれば説明義務違反に基づく損害賠償請求が可能です。この場合の損害賠償額は,医師が適切に説明していれば結果が発生しなかったか否かで大きな開きがあります。

まず,医師が適切に説明していれば患者は治療を受けず患者が亡くなる等の結果は発生しなかったと考えられる場合は,説明義務違反と発生した結果との間に因果関係が認められ,過失がなくても過失があった場合と同様に慰謝料の他,休業損害や逸失利益等全ての損害が認められるので総額で数千万円以上になることもあります。たとえば,予防的手術や美容整形等の緊急性のない手術の場合は,手術の危険性等の説明が適切になされていれば患者は手術を受けなかったといえる場合が多く,説明義務違反と発生した結果との因果関係が比較的認められやすいとされます。

これに対して,医師が適切に説明していたとしても,患者は治療を受けていたと考えられる場合は,説明義務違反と発生した結果との間に因果関係は認められないため,発生した結果についての損害は認められません。医師の説明義務違反により治療を受けるかどうか患者が自己決定する機会を奪われたという自己決定権侵害に対する慰謝料が認められるに過ぎません。この場合の損害賠償額は数十万円から200万円程度が多いです。適切に説明がなされても患者が治療を受けていたと考えられる場合とは,たとえば当該疾患の当該症状であれば通常実施される治療が挙げられます。

■医療事故は発生していないが患者の望んだ結果にならなかった場合

医師に説明義務違反があっても,説明義務違反のあった医療行為により死亡や後遺障害などの悪い結果が起きなければ損害が発生していないので損害賠償請求はできません。しかし,医師の説明義務違反により患者が望んだ結果(前掲・エホバの証人事件では無輸血の手術,乳房温存療法事件では乳房温存)にならなかった場合も悪い結果に含められるため,医療事故が発生していなくても自己決定権侵害を理由に精神的苦痛に対する慰謝料が認められます。但し損害賠償額が低額なため(前掲・エホバの証人事件の慰謝料は50万円),裁判をすると患者側は費用倒れになります。                 

■顛末報告義務違反の場合

患者や遺族は,治療終了後,医師に対し診療経過等の顛末を説明するよう要求することができます。医師が患者や遺族の求めに応じなかった場合,顛末報告義務違反による損害賠償責任を問われることがあります。説明義務違反のように患者の自己決定権を侵害した訳ではないので顛末報告義務違反の慰謝料は低額になります(慰謝料30万円を認めた裁判例:大阪地判平成20年2月21日)。但し,病院の対応が悪質だったため,高額の慰謝料が認められたケースもあります。出産後母子ともに死亡した医療事故で,裁判所は医療行為の過失は否定しましたが,医師が診療録等を改ざんし替え玉に立てた看護師に偽証させたことが顛末報告義務違反の不法行為に当たるとして1500万円の慰謝料を認め,又,子が出生後に死亡したのに死産と扱ったことが顛末報告義務違反の不法行為に当たるとして200万円の慰謝料を認めました。民事裁判中に刑事告発され,医師は偽証教唆,看護師は偽証で執行猶予付きの有罪判決を受けた特異な事案です(甲府地判平成16年1月20日)。

▲TOPへ戻る

医療過誤 医療事故 弁護士