医療コラム『医療行為の過失の種類』

医療行為の過失には,問診義務違反,検査義務違反,診断義務違反,治療義務違反,術後管理義務違反,投薬に関する義務違反,療養方法の指導に関する義務違反,転送義務違反,看護に関する義務違反などがあります。

■問診義務違反

問診とは,診察を受けたとき医師から尋ねられる病状,経過,アレルギーの有無,患者及び家族の病歴等の質問のことです。医師は,患者に問診を行って診断や治療の助けにします。問診義務違反が問題となる類型として,(1)疾患の鑑別に必要な問診をしなかった場合と,(2)投薬や麻酔の際問診を怠りアナフィラキシーショック(アレルギー反応の一つ)により死亡するケースがあります。患者は,通常,病気の典型的症状を知らないので自分の症状を的確に言葉で表現することができませんし,病気によっては持病や過去にかかったことのある病気(既往歴)や親兄弟の病気(家族歴)が重要な情報になることも知りません。医学の素人ですから医学的に何が大事で何が大事ではないか分からないのは当然です。医師は,患者に医学的知識が乏しいことを踏まえ鑑別診断や治療に必要な情報を上手に患者から聞き出さなければなりません。医師の問診義務違反が問題となった判例に,最判昭36.2.16(献血の際の問診),最判昭51.9.30(予防接種の際の問診),最判昭60.4.9(投薬の際の問診)があります。

■検査義務違反

病気の鑑別診断に必要な検査を実施せず経過観察にして手遅れになった,術前検査が不十分のまま癌の手術をしたところ癌ではなかった,検診で異常を見落とされた場合などに問題となります。検査設備がない場合は,精密検査のできる病院に患者を紹介しなければならず,それをしないと転送義務違反(転医義務違反とも言います)を問われます。検査義務違反が問題となった最判平11.2.25は,肝硬変で専門医に定期通院していた50代前半の男性が,肝細胞癌を発症する危険性が高かったのに検査が実施されず,他院で既に手の施しようのない肝細胞癌が発見され間もなく死亡した事件です。

診断義務違反

診断を怠った結果,必要な治療が実施されなかったことが問題となるため,診断義務違反単独というより,次に述べる治療義務違反と一緒に主張されることが多いです。緊急の場合は,確定診断がつく前に可能性の高い疾患に対する治療を開始しなければならない場合もあるので,主に治療を実施しなかったことが問題になります。          

治療義務違反

治療義務違反には,(1)必要な治療を実施しなかった場合,(2)実施された治療方法の選択が問題となる場合,(3)治療の必要性が問題となる場合(適応違反),(4)手技に過失があった場合があります。

(1)のケースで最判平13.6.8は,重症の怪我を負った患者が入院中に敗血症で死亡した事件です。裁判所は,医師は細菌感染に対する適切な措置を講じて重篤な感染症に至ることを予防すべき注意義務があったと判断しました。(2)のケースで東京地判平17.12.8は,医師が,自己免疫性肝炎の可能性が高い患者に小柴胡湯(ショウサイコトウ)を投与していた事件で,裁判所は,肝炎の第1選択であるステロイド療法を開始すべき義務があったと判断しました。(3)「適応」とは,医療行為を行う妥当性です。手術適応が問題になりやすく手術を実施すべきではなかったなどと主張されます。大阪地判平14.8.28※※は,大腸癌及び肝臓癌の同時切除術を行ったところ多臓器不全により患者が死亡した事件です。裁判所は,手術適応があったと認め医師の過失を否定しました。(4)手技上の過失は主に手術で問題となります。損傷しても必ずしもミスとは言えず,手術のやむを得ない合併症として過失が否定される場合があります。東京地判平17.4.27※※※は,経皮経管的冠動脈形成術の際,冠動脈を穿孔,出血し患者が死亡した事件です。裁判所は,偽腔内でバルーンを拡張して血管穿孔を招いた過失を認めました。

※医療訴訟ケースファイルVol.2東京・大阪医療訴訟研究会編著,判例タイムズ社90〜93頁
※※医療訴訟ケースファイルVol.1東京・大阪医療訴訟研究会編著,判例タイムズ社128〜130頁
※※※東京地判平17.4.27,判例タイムズNo.1186,191〜222頁

術後管理義務違反

手術に関連して,術後管理義務違反が問題となります。最判平18.4.18は,冠動脈バイパス手術を受けた患者が術後腸管閉塞を起こし死亡した事件です。裁判所は,医師には直ちに開腹手術を実施し,腸管壊死部分があればこれを切除すべき注意義務を怠った過失があると判示しました。

投薬に関する義務違反

投薬により重大な副作用が生じた場合,早期に投薬を中止しなかった過失が問題となります。医薬品の添付文書に記載された使用上の注意事項に従わず医療事故が起きた場合は,合理的理由がない限り医師の過失が推定されるとされます(最判平8.1.23)。

療養方法の指導に関する義務違反

療養方法の指導に関する説明は,医療行為の一環であり,どのような症状が現れたら病院を受診する必要がある等の説明をしなかった場合に問題となることが多いです。退院時や通院終了時に,一定の症状があれば重篤な疾患に至る危険があり速やかに医師の診察を受ける必要がある場合,医師には患者に具体的に説明する義務があり,「何かあったら病院に行くように」という一般的説明しかしなかった場合,療養方法の指導に関する義務違反が問われます。最判平7.5.30は,医師が黄疸の認められる未熟児を退院させる際,親に特に注意をしなかったところ児に核黄疸による脳性麻痺を生じた事件です。裁判所は,医師は退院の際親に,黄疸が増強して哺乳力の減退などの症状が現れたときは重篤な疾患に至る危険があることを説明し,症状が現れたときには速やかに医師の診察を受けるよう指導すべき注意義務を負っていたというべきとし,退院時黄疸について何ら言及せず,何か変わったことがあれば医師の診察を受けるようにとの一般的な注意を与えたのみでは,注意義務を尽くしたとは言えないと判示しました。

※最判平7.5.30,判例タイムズNo.897,64〜83頁

転送義務違反

転送義務違反は,開業医で問題になることが多いです。医師は,自ら検査や診療行為を行えないときは,実施可能な医療機関に患者を転送し適切な医療を受けられるようにすべき義務があります。最判平15.11.11 は,通院治療中の小学6年生の患者が急性脳症により重い脳障害の後遺症を残した事件です。裁判所は,自ら検査及び治療の面で適切に対処することができない何らかの重大で緊急性のある病気にかかっている可能性が高いことを認識することができた事情の下では,開業医には高度な医療を施すことのできる適切な医療機関へ転送し,適切な医療を受けさせる義務があると判示しました。

※判例タイムズNo.1140,86〜92頁

看護に関する義務違反

呼吸管理,痰吸引措置,急変時の医師への報告の遅れ,薬誤投与など,入院管理に関する看護師の対応が問題となることが多く,次いで病院内の転倒事故が多いです。その他,新生児管理(看護師がカンガルーケア中の児の異常を見落とし死亡した事件)や患者に対する湯たんぽ使用時の事故(患者が低温熱傷となり敗血症から多臓器不全となり死亡した事件※※)があります。

※大阪地判平19.7.20/医療訴訟ケースファイルVol.4東京・大阪医療訴訟研究会編著,判例タイムズ社276〜280頁
※※東京地判平15.6.27/医療訴訟ケースファイルVol.1東京・大阪医療訴訟研究会編著,判例タイムズ社9〜11頁

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