元々の制度設計は,事故の原因を究明し再発防止に繋げるための情報収集手段でした。しかし,「医療事故調査制度」という名称が,病院側にも患者側にも医療ミスの責任追及手段という誤解を招いているのが現状です。新しい制度の問題点が徐々に浮き彫りとなり,平成28年6月,制度の一部改正が行われました。
■医療事故調査制度開始から1年間の報告件数■医療事故調査制度の問題点―事故の報告件数が少ない平成27年10月に制度が始まり,1年間の報告件数は388件でした。制度設計の段階では,年間1300〜2000件の報告があると予想していましたが,実際はその2〜3割に過ぎませんでした。388件のうち,病院は362件,診療所は26件でした。診療科では,外科69件,内科56件,消化器科と整形外科が各々34件,循環器内科が25件,産婦人科22件,心臓血管外科21件,小児科17件,脳神経外科16件,精神科15件,その他79件でした(プレスリリース医療事故調査制度の現況報告[9月]平成28年10月11日医療事故調査・支援センター)。
■医療事故調査制度の見直し利用されなければ制度を作った意味がありません。なぜ,報告件数がこんなに少ないのでしょうか。まず,担当医師が院長など医療機関の管理者に対し事故報告をなさず,そもそも管理者が死亡事故が起きたことを把握していない場合があります。次に,医療機関が第三者機関(日本医療安全調査機構)に報告しなければならない医療事故は,「予期しなかった」死亡事故ですが,判断基準が曖昧なため,報告しない場合があります。予期できたか否かは患者の病状から判断するもので,一般的な死亡の可能性について説明しただけでは「予期していた」ことにはならないのですが,医療法施行規則第1条の10の2は,医師が患者家族に死亡が予期されることを説明していたか,診療録等に記録していた場合は「予期しなかった」死亡に該当しないとしているため,事前に患者家族に死亡のリスクを説明しさえすれば報告する必要はない,とも受け取れます。しかも,遺族からは,事故を第三者機関に報告することができないので,「医療事故」として報告するか否かは,医療機関の管理者の判断次第でした。
厚生労働省は,報告件数が伸び悩む医療事故調査制度の改善を図るため,平成28年6月24日,医療法施行規則の一部を改正する省令の公布等を行いました。医療機関の管理者は,院内で起きた医療事故を漏れなく把握する体制を確保しなければならないことが明確化され,「予期しなかった」死亡事故の判断基準や院内調査方法を全国で統一するため協議会を設置し検討することになりました。担当医師が死亡事故を院内で報告しない場合に備え,第三者機関が遺族の相談を受け,医療機関に対し遺族の調査要望を伝える仕組みも作られました。