医療コラム『医療相談の9割は医療事故ではない!?』

医療事故という言葉は,過失のないやむを得ない合併症の場合と過失のある医療ミスの場合の両方を含みます。医療法律相談のうち実に9割以上は,そもそも医療事故ではありません。医療事故にあたるのは残りの1割弱ですが,そのうち医療ミスの可能性があるのはごく一部に過ぎません。なぜ,9割以上の患者や遺族は,医療事故だと誤解してしまうのでしょうか。

■医療事故だと誤解する理由(1) 医師のコミュニケーション不足

医師の中には患者と目を合わせなかったり,患者や家族の話を遮って話をさせなかったり,患者が質問をすると不機嫌になってしまうなど,診療に関する説明をする以前に,そもそも患者とコミュニケーションを取らないか,あるいは,取れない医師がいます。これでは,患者や家族の医師に対する不信感は増すばかりで,いずれトラブルになるのは目に見えています。逆に,患者と良好な関係を築ける医師は,トラブルが少なく多少診療に問題が生じても患者との信頼関係から紛争にならない傾向があります。

医師が患者とのコミュニケーションの大切さを認識し,コミュニケーション力を高めれば殆どの医療紛争は防げるかもしれません。

■医療事故だと誤解する理由(2) 医師の説明不足

医師は,患者に対し診療に関し丁寧に説明をする義務があります。医師が,説明義務違反に問われないために,患者にどの位説明する必要があると思いますか?患者は,治療を受けるか否か,受けるとしてどの治療方法をいつ受けるのかについて自ら決定する権利(自己決定権)を持っています。医師は,患者が診療に関し自己決定をするのに必要な情報を提供する必要があるため,医師が説明すべき内容や程度は患者の症状や理解度によりケースバイケースとなります。医師の説明義務について,医師はその重要性を認識しておらず,手術同意書に患者の署名捺印をもらうためのもの位に思われがちですが,医師の説明が不十分であったり,患者から頼まないと説明をしないといった態度を取っていると患者や家族から不信感を持たれ,医師の説明不足から患者や家族にとって予想外の事態が起きると医療事故だと誤解されます。

■医療事故だと誤解する理由(3) 医師の「大丈夫ですよ」発言

患者が危篤の時,医師が家族を励まそうと「大丈夫ですよ」と声をかけることがあります。医師は,患者が助からないことを分かっているのですが,家族は医師から「大丈夫ですよ」と言われると助かるのだと受けとめてしまい,患者が亡くなると家族にとって予想外の展開ですから医療ミスだと誤解してしまいます。逆に,医師が当初から家族に,予想される結末を説明していれば患者が亡くなっても予想どおりの経過なので医療ミスを疑われることはありません。医療事故だと誤解されるのは,家族にとって予想外の展開の場合ですから,医師は,正確な情報を丁寧に説明する必要があり,助かる見込みがないのに回復するのではと期待を抱かせるような言葉をかけるのは避けるべきです。医師は,安易な発言が医療紛争を招くことを理解し,患者家族に対する説明の重要性をより一層認識する必要があります。

■医療事故だと誤解する理由(4) 後医問題

医療ミスはないのに後医が医療紛争を引き起こすことを後医問題といいます。患者が,手術など治療を受けた後,転院して別の病院で治療を受けることがありますが,後でかかった病院の医師(後医と言います)の一言がきっかけで,患者が医療ミスに遭ったと誤解することが多いです。患者家族から医療法律相談を受けるたび,なぜ後医は無責任な発言をするのかと思います。後医が前の病院で医療ミスがあったと患者に誤解させる発言をすると,医師の発言ですから患者や家族は疑うことなく医療ミスがあったと信じ,慌てて法律事務所に駆け込むことになります。医師は,何気ない一言が医療紛争を引き起こすことを認識し,安易に前医を批判しないよう十分気をつけなければいけません。

■医療事故だと誤解する理由(5) 看護師の態度

看護師の態度が原因で医療紛争を引き起こすこともあります。特に患者が亡くなった場合,入院中ナースコールをしても看護師が来てくれなかった,担当ではないと言って対応してくれなかった,患者が危篤状態なのにナースステーションから看護師の笑い声がした等,看護師の態度に遺族が不満を積もらせ,病院に対し看護師の態度の是正を申し入れたいとの思いが発端となり,医療紛争に発展する場合があります。

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