医療コラム『医療ミスで問われる医師・看護師の法的責任』

医療ミスを起こした場合の3つの法的責任

医療ミスを起こした場合,医師・看護師その他の医療従事者は,民事責任,刑事責任,行政責任の3つの法的責任を問われる可能性があります。通常は,患者や遺族から民事責任(損害賠償責任)を追及されるのみです。しかし,医療ミスにより患者が死亡したり,重大な後遺症が残った場合には,刑事事件になる場合があります。刑事事件になると,刑事責任(刑法211条業務上過失致死傷罪:5年以下の懲役もしくは禁錮又は百万円以下の罰金)が問われます。刑事事件で,罰金以上の刑に処せられると,厚生労働大臣が医道審議会の意見を聴いて行政処分(戒告,医業停止,免許の取消し)を下します(医師法7条,保健師助産師看護師法14条等)。                         

民事裁判で問われる2つの責任

民事裁判では,医療ミスを起こしたのが勤務している医師や看護師の場合,個人を訴えることはできますが(民法709条),医療従事者を被告にすることは比較的少ないです。人はミスをおかしてしまうものだから罪を憎んで人を憎まずの精神で,医療従事者個人を紛争の当事者にして仕事に支障を来さぬよう,又,医師の将来を考え患者家族があえて個人を被告にしないよう願うことが少なくありません。勤務医が被告になるのは,患者家族に対する対応がよほど酷かったか,患者弁護士の方針と考えられます。通常は病院を開設している法人を被告として使用者責任(715条)を追及することが多いです。これは不法行為責任といって,交通事故と同様に当事者間に契約関係がない場合の責任追及の方法ですが,患者と病院は診療契約を締結しているので,病院を開設している法人(個人病院や診療所の場合は開設している医師)に対し契約上の責任,即ち,債務不履行責任を併せて追及します(民法415条)。不法行為責任や債務不履行責任は,法律構成といわれるもので不法行為に基づく損害賠償請求単独でも,債務不履行に基づく損害賠償請求が併せて主張されても,損害賠償額に差はありません。

不法行為責任と債務不履行責任の差

損害賠償請求権の消滅時効期間は,不法行為責任の方が短いことから(被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年[民法724条],債務不履行責任は,権利を行使することができる時から10年[民法166条,167条]),不法行為責任が時効にかかって追及できないときは,債務不履行責任を単独で主張します。不法行為構成と債務不履行構成では,消滅時効期間の他,遅延損害金の発生時期・近親者固有の慰謝料請求の可否・相殺の可否等で差があります。遅延損害金の発生時期は,不法行為構成では,不法行為の時発生するのに対し,債務不履行構成では,被告に請求した日(実務では訴状送達の日)の翌日から遅延損害金の支払いを請求できるにすぎません。近親者固有の慰謝料については,不法行為構成では請求できますが,債務不履行構成では,近親者は診療契約の当事者ではないので認められません。相殺(互いに差し引くこと)については,医療機関が患者に対して債権を持っていても不法行為構成では,相殺が禁止されていますが,債務不履行構成では禁止されていません。さらに,債務不履行構成の場合,患者と医療従事者とは契約関係が無いので勤務している医師や看護師個人を被告にすることはできません。

▲TOPへ戻る

医療過誤 医療事故 弁護士