光樹(こうき)法律会計事務所 医療事故・医療過誤の法律相談 全 国 対 応 電話相談可

お問合せ
平日10:30~17:00
03-3212-5747
医療過誤 医療事故 弁護士68.png

内科における過去の医療過誤・医療事故の裁判事例。事案の概要・請求金額・結論・争点・認容額の内訳など。

医師が,経過観察のため入院していた患者を診察・検査しなかった過失及び看護師が医師に報告しなかった過失がいずれも認められなかったケース

 

大阪地方裁判所 平成16年(ワ)第2450号 損害賠償請求事件
平成18年1月25日判決 確定
【検査,報告義務】

<事案の概要>

患者(昭和11年生,男性)は,大学病院で,平成7年4月に洞機能不全症候群と診断されてペースメーカーの植え込みを受け,経過観察となっていた。

患者は,平成13年11月l日,発熱したことから近医を受診し,投薬を受けたが,発熱のほか,頭痛や嘔吐等を生じたため翌2日,被告病院を受診し,血液検査,胸部レントゲン検査,心電図検査,頭部CT検査等を受けたが,頭痛の原因は不明だったため被告病院に入院した。担当医師(循環器科)は,患者に対する頭部MRIないしMRA検査の実施を考えたが,脳外科医から,ペースメーカー移植患者に対するMRIないしMRA検査は禁忌と聞き,検査を実施しなかった。

患者は,同月3日午後6時ころ,自制できない頭痛を訴えたが,担当医師(内科)が担当看護師に患者のバイタルサイン等を確認したところ,異常がなかったため,投薬が指示された。同日午後10時ころ,患者は覚醒中で体動著明であったが,担当看護師は,担当医師に報告しなかった。同日午後11時40分乙ろ,患者が強い痛みを訴え,眠れない状態であったことから,担当看護師は,担当医師に電話で報告した。担当医師は看護師に意識障害や神経症状等の大きな異常はないことを確認し,睡眠導入剤の投与を指示した。

その後,患者は,ベッドから転落しているところを発見された。患者は,意識レベルが低下し,声かけに反応しなかったが,頭部CT検査では,同月2日に実施された頭部CT検査の結果と著変はなく,出血や新たな梗塞は認められなかった。

同月4日午前3時20分ころ,患者の心拍数が低下して呼吸が停止し,自発呼吸がなく,四肢末梢に冷感・チアノーゼが見られ,パイタルサインを測定できず,心肺蘇生を実施したが,患者は同日午前6時過き死亡した。

患者の死亡原因は,脳幹部梗塞であった可能性が最も高かったが,患者がぺースメーカーの移植を受けていたことから,急激にぺーシング閾値を上昇させるような心筋梗塞等の何らかの心筋障害の出現によって死亡した可能性も否定できず,患者の死亡原因は明らかではない。

患者の家族(妻及び子ら)が,被告病院を開設する法人に対し,損害賠償請求訴訟を提起した。

請求金額

合計4639万9799円

結  論

請求棄却

争  点

①担当医師に,患者の頭痛の原因を明らかにするための診察や検査を行わなかった過失があったか否か
②担当看護師に,患者が激しい頭痛を訴えていることを担当医師に報告しなかった過失があったか否か
医療過誤 医療事故 弁護士68.png

内科における過去の医療過誤・医療事故の裁判事例。事案の概要・請求金額・結論・争点・認容額の内訳など。

ステロイド注射を行うに当たり,あらかじめ糖尿病の罹患の有無について問診,検査等を行うべき注意義務違反,及びステロイド注射の方法についての注意義務違反がいずれも認められなかったケース

 

大阪地方裁判所 平成16年(ワ)第14633号 損害賠償請求事件
平成17年11月30日判決 確定
【治療方法・時期】

<事案の概要>

患者(昭和28年生,男性)は平成9年5月13日,肩痛,頸肩痛を訴えて被告診療所を受診(初診)した。患者を診察した担当医師は,頸椎のレントゲン検査を行って頸肩腕症候群と診断し,精査目的で,他院にMRI検査を依頼するとともに,低周波治療(理学療法)を実施し,鎮痛剤等を処方した。

患者は,その後も痛みが改善しなかったため,5月16日,被告診療所を受診した。担当医師は,患者の頸肩痛に対し,左右の肩甲部の疼痛部位にステロイド剤である0.4%デカドロン1A(0.5ml)とプロカイン(局所麻酔薬)2Aを筋肉注射した。患者は,5月20日にも,被告診療所を受診し,担当医師から前回と同様の筋肉注射を受けた。患者は,5月30日,被告診療所を受診した際,初めて口渇感及び体重の減少を訴えた。担当医師は,糖尿病を疑い,尿検査及び血糖値を測定したところ,検査値はいずれも高値であった。

患者は,被告診療所を経営する医療法人に対し,担当医師が,糖尿病の罹患の有無について予め確認しないでステロイド注射を行ったことに注意義務違反があり,そのため患者の糖尿病が悪化したなどと主張して,損害賠償請求訴訟を提起した。

請求金額

合計550万円

結  論

請求棄却

争  点

①ステロイド注射を実施する前に患者に対し糖尿病の罹患の有無及び家族の既往歴を問診すべき注意義務があるか否か
②ステロイド注射を実施する前に血液検査等により糖尿病の罹患の有無を確認すべき注意義務があるか否か
③ステロイド剤の投与が糖尿病を悪化させる危険があることを説明すべき注意義務の有無
④担当医師が行ったステロイド注射の方法に誤りがあったか否か
医療過誤 医療事故 弁護士68.png

内科における過去の医療過誤・医療事故の裁判事例。事案の概要・請求金額・結論・争点・認容額の内訳など。

術後,放射線療法等による疼痛に対して18年以上鎮痛剤を投与し続けたことについて,鎮痛剤投与の過失及び鎮痛剤の効果による他の疾病の見落としを防止するための指導の懈怠がいずれも認められなかったケース

 

東京地方裁判所 平成15年(ワ)第17592号 損害賠償請求事件
平成17年1月31日判決 控訴・控訴棄却
【適応,因果関係】

<事案の概要>

患者(昭和14年生,女性)は,昭和50年,被告診療所において子宮癌との診断を受け,昭和51年,甲病院(国立病院)で子宮全摘術を受け,術後,放射線療法として膣内にコバルト60を入れて照射する放射線療法を受けた。患者はこれらの処置のためサブイレウス(完全閉塞に至らない腸閉塞)の状態等になり,乙病院(大学病院)で昭和55年,小腸部分切断及び人工肛門造設術を,昭和60年に腹腔内腫瘍のドレナージを受けた。

被告診療所は,患者に対し,昭和56年1月以前から平成12年9月16日まで,鎮痛剤であるソセゴン(連用によって薬物依存,連用後の中止で禁断症状を生ずることがある)を断続的に投与した。

患者は,平成12年9月19日,肺癌と診断され国立がんセンター丙病院に入院し,同年10月,肺腺癌のⅢb期と診断され,同年11月27日,肺がんにより死亡した。

患者の家族(夫及び子)が,被告診療所の経営者である担当医師及び被告診療所の副院長(原告は担当医との共同経営者と主張)を相手として,損害賠償請求を提起した。

請求金額

合計3150万円

結  論

請求棄却

争  点

①鎮痛剤投与の必要性
②ソセゴンの適応の有無
③ソセゴン投与の際の診察指示の有無
④因果関係の有無
医療過誤 医療事故 弁護士68.png

 内科における過去の医療過誤・医療事故の裁判事例。事案の概要・請求金額・結論・争点・認容額の内訳など。

下大静脈壁損傷により死亡した患者について,カテーテル挿入操作を誤った過失が認められなかったケース

 

大阪地方裁判所 平成15年(ワ)第2760号 損害賠償請求事件
平成16年5月24日判決 控訴
【手技,因果関係】

<事案の概要>

患者(昭和16年生,女性)は他院に入院中,平成14年4月15日,くも膜下出血を発症し,被告病院に救急搬送された。被告病院は,同月29日,患者に対し左鼠径部からカテーテルを挿入して,人工透析治療を施行した際,カテーテルにより,下大静脈壁を損傷した。カテーテル挿入後,患者のパイタルサインに特に変化はなく,患者は,同日午前10時30分ころ,透析室へ運ばれ,透析室入室時の血圧は142/46㎜Hg,脈拍は毎分106回であった。B医師は,同日午前10時47分,患者の血液透析を開始し,透析開始直後は,脱血に問題なく経過していたが,午前10時52分,動脈圧ライン上,収縮期血圧が80ないし90台へ低下した。同日午前11時1分には,カタボン(昇圧剤)を持続点滴投与したが午前11時6分には収縮期血圧が30台となり,ノルアド(昇圧剤)0.5Aを静脈注射し,透析回路中の血液を返血し,透析を終了した。午前11時7分,患者の血圧は20台に低下し,下顎呼吸となったため挿管し,努力様呼吸のため,アンビューバック(ジャクソン加圧)で人工呼吸を実施したが,午前11時16分,ソルメド(ショックに対し使用する薬剤)の静脈注射直後,心拍数が毎分20回台となり,モニター上心拍停止に至った。心臓マッサージが開始され,午後0時18分,患者は,不安定ながら小康状態を保っていたため,透析室からNCUに搬送された。その後も血圧低下が続き,午後1時10分ころ,循環血液量を維持し,血圧を安定させるためMAP(赤血球濃厚液)及びFFP(新鮮凍結血漿)の輸血をカテーテルから行われたが循環血液量は回復しなかった。

患者は,5月17日,下大静脈壁損傷による播種性血管内凝固症候群により,被告病院において死亡した。

患者の家族は,患者が死亡原因は,カテーテルの挿入操作を誤って静脈壁を損傷し,これを看過して透析治療を行った注意義務違反によるとして,被告病院を設置する国に対し,損害賠償請求訴訟を提起した。

請求金額

合計3034万8470円

結  論

請求棄却

争  点

カテーテルの挿入操作を誤って静脈壁を損傷し,これを看過して透析治療を行った過失の有無
医療過誤 医療事故 弁護士68.png

内科における過去の医療過誤・医療事故の裁判事例。事案の概要・請求金額・結論・争点・認容額の内訳など。

患者の死亡原因は原告主張のMRSAの感染による敗血症性ショックや低血糖性昏睡ではないとして責任が否定されたケース

 

東京地方裁判所 平成13年(ワ)第23345号 損害賠償請求事件
平成16年3月25日判決
【説明・問診義務,入院管理,因果関係】

<事案の概要>

患者(大正15年生,男性)は,昭和37年ころから糖尿病を指摘され,平成2年,糖尿病性壊疸により右第3,第4足趾を切断し,平成4年には僧帽弁置換術を受けた。平成10年ころ,甲病院に入院し,平成11年12月ころまで食事療法を行ったが血糖値のコントロールが不良となり,右足外側や臀部右仙骨部の褥創部に潰瘍が形成され,平成12年1月21日からインシュリン療法が行われた。

患者は、同月27日,乙病院(大学病院)に転院となり,食事療法及びインシュリン療法が行われる一方,潰瘍に対する治療等が実施された。その後,血糖値のコントロールが良好となり,潰瘍も縮小傾向となった(ただし,褥創部からメチシリン耐性黄色ブドウ球菌〔MRSA〕が検出された)ことから,同年4月19日,被告病院に転院した。

乙病院の被告病院に対する紹介状には、傷病名として,①糖尿病,②右臀部皮下膿瘍,③右足背潰瘍,④褥創(仙骨部,足)と記載されていた。被告病院において治療等が行われたが,患者は,同年4月29日午後4時50分,病室において呼吸停止状態で発見され,同月30日午前1時40分に死亡した。

患者の家族(妻子)が,被告病院を開設する法人に対し,損害賠償請求訴訟を提起した。

請求金額

合計4665万7510円

結  論

請求棄却

争  点

①本件患者の死亡原因
②説明義務違反の有無
③感染症治療義務違反の有無
④血糖値管理義務違反の有無
⑤経過観察義務違反の有無
⑥因果関係,損害
医療過誤 医療事故 弁護士68.png

内科における過去の医療過誤・医療事故の裁判事例。事案の概要・請求金額・結論・争点・認容額の内訳など。

末期患者に対する吸引処置の適否が争われ,過失が認められなかったケース

 

大阪地方裁判所 平成15年(ワ)第5372号 損害賠償請求事件
平成16年3月15日判決
【説明・問診義務,入院管理】

<事案の概要>

患者(明治40年生,女性)は,脳梗塞等の既往歴があり,寝たきりであったが平成13年3月14日,胸苦を訴え,排尿・排便にも支障が生じたことから,同居の娘の救急要請で被告病院(総合病院)に搬入され,心不全・心房細動等と診断され,被告病院に入院した。担当医師は,患者の娘に対し,患者には心不全及び貧血があっていずれもかなり悪く,急変時の延命処置の検討をしておいてもらいたいと説明した。娘とその他親族は,延命処置は希望しないことに決めた。

患者は入院当初から足部浮腫,微熱,食欲不振等の所見が見られるなど全身状態が悪く,同年4月3日には老衰の可能性が高いと診断され,同年6月1日には徐々に悪化していると診断されるなど末期状態(エンドステージ)にあった。

患者は,同月20日ころから,呼吸の態様が徐々に悪化し,努力様呼吸に移行していった。同月21日には,全身の冷感が著明で肩で呼吸をし,喘鳴が認められ,全肺野にラ音が聴取される状態となり,全身や爪の色も不良,足趾や足底にチアノーゼが認められた。患者の状態はさらに悪化し,SaO2(動脈血酸素飽和度)80%,意識レベルはJCSⅢ-200程度,全身色不良,足底のチアノーゼはやや増強し,呼吸も下顎呼吸となり,吸引をしても痰が少量引ける程度で,ゴロ音や喘鳴がとれず,両肺のラ音が著明な状態であった。

担当医師は,患者の娘に対し,容態が危険で今日もつかどうかも分かりにくい旨を説明した。担当看護師は同月21日午後4時30分ころから勤務に入り,同日午後8時ころ,患者に対し,背部タッピング及び口腔と鼻腔から吸引処置を施して,泡沫状の茶色の痰を少量吸引した。翌22日午前零時15分ころ,付き添っていた患者の娘から担当看護師に対し,患者の口腔内に唾がたまってきているとの申し出があった。担当看護師は、患者の口が半聞きで,茶色の分泌物が酸素マスクからにじみ出るように口角から伝って外に流れ出ている状態だったので,患者の酸素マスクを外して口腔内と鼻腔内から茶色の分泌物を吸引した。

担当看護師が吸引を終え,患者の背部のタッピングを行っているとき,ナースステーシヨンのスピーカーから,患者の心拍数が40くらいまで落ちてきているとの連絡があったため,担当看護師は,当直医に連絡を取った。この時点で患者は血圧を測定できない状態で,呼吸はチェーンストークス様になっていた。

患者は,同日午前零時46分,心不全により死亡した。

患者の遺族らが,被告病院を開設する法人に対し,損害賠償請求訴訟を提起した。

請求金額

合計880万円

結  論

請求棄却

争  点

①患者がエンドステージにある場合,患者が酸素マスクをして唾液を垂らしていても,酸素マスクを外して唾液の吸引処置をするのは患者の病状にショックを与えることがあるから,吸引するのではなく唾液を拭うべき注意義務があるか。仮に,唾液の吸引処置をすること自体は適切な処置であったとしても,担当看護師は,エンドステージにある患者に対し極めて乱暴で過剰な方法により吸引処置を行った注意義務違反があるか。
②患者の死亡について事後的な説明を怠った注意義務違反があるか。
医療過誤 医療事故 弁護士68.png

内科における過去の医療過誤・医療事故の裁判事例。事案の概要・請求金額・結論・争点・認容額の内訳など。

末期患者について,透析治療の適応は認められず,患者の肺水腫,呼吸不全に対する処置が不十分であった過失も認められなかったケース

 

大阪地方裁判所 平成14年(ワ)第5705号 損害賠償請求事件
平成15年5月28日判決
【説明・問診義務,入院管理,適応】

<事案の概要>

患者(明治38年生,男性)は,腹部大動脈瘤を有していたが,状態は安定しており,自宅で生活していたが,平成12年2月末から腹部の痛み,全身倦怠感が現れ,同年3月上旬には全身状態が急速に悪化したため,3月4日,被告病院内科に入院した。被告病院内科のA医師が当初担当医となったが,消化管出血が持続していたこと等からその後,被告病院外科医のB医師も担当に加わった。

B医師は,診察及び検査所見から,患者が腹部大動脈瘤の解離により,腎不全,さらには播種性血管内凝固症候群(DIC)を合併し,これによって消化管出血も生じており,ショック状態に陥っていると診断したが,患者が高齢であったことから腹部大動脈瘤に対して外科的手術を施すことは困難であると判断した。

B医師は,患者の親族らに対し,患者が非常に重篤な状態であり,今日,明日にも急変の可能性があり,高齢なので腹部大動脈瘤に対して外科的な手術を行うことは困難である等と説明した。患者の長女が,患者の腎不全に対して透析治療を行ってほしい旨述べたが,B医師は,患者の年齢や病態などから,透析治療を行うことはかえって生命に危険を及ぼすものであり,透析治療の適応はないと考え,患者らに対し,その旨説明した。

患者は,被告病院入院後,昇圧剤等の投与で,一時的に血圧等が改善したが,原疾患自体はまったく改善せず,同月8日から9日にかけて呼吸不全となり,酸素投与,経鼻エアーウェイ等が行われたが,全身状態は次第に悪化し,同日死亡した。

患者の長女が,被告病院を開設する法人に対し,損害賠償請求訴訟を提起した。

請求金額

880万円

結  論

請求棄却

争  点

①患者に透析治療の適応があったか。
②患者の肺水腫,呼吸不全に対する処置が不十分であったか。
③患者の病態等に関する説明義務の違反があったか,患者の親族だけでなく患者本人に対しでも説明をすべきであったか。
医療過誤 医療事故 弁護士68.png

内科における過去の医療過誤・医療事故の裁判事例。事案の概要・請求金額・結論・争点・認容額の内訳など。

右上肢へのケタラール注射により右上肢及び両下肢の機能障害,脊髄から両下肢にかけての痛みが生じたことを否定したケース

 

大阪地方裁判所 平成13年(ワ)第10426号 損害賠償請求事件
平成14年4月24日判決
【治療方法・時期,因果関係】

<事案の概要>

患者(平成2年当時31歳,女性)は,昭和63年6月から,不眠症,腰痛症,うつ病等で被告病院(個人病院)にて診療を受けるようになり,平成元年6月22日から同年7月27日まで,左手・肘・骨盤部の打撲傷についての診療も受けていた。

患者は他の医院でケタラール50の点滴注射を受けていたので,被告病院でもケタラール50の点滴注射を希望した。担当医師は,平成元年9月12日,患者に対し,ベンタジン1アンプルを上腕部に筋肉注射した上,上肢の肘横面部にケタラール50を1本(10ml)点滴によって静脈注射した。しかし,点滴中,患者に意識低下が生じたため,担当医師は直ちに患者を甲病院(総合病院)に入院させた。

患者と被告病院は,平成元年9月12日のケタラール注射により患者に意識低下を生じさせた責任として被告病院が患者に60万円を支払う(ただし後遺症は除く。)旨の示談書を作成した。

患者は,平成元年12月13日から,ケタラール注射による後遺障害が発生したとして,300万円の賠償金の支払を何度も要求したが,担当医師は,ケタラール注射により後遺障害が発生するはずはないと考え,支払を拒否した。

平成2年2月21日,患者は,市から左上肢の機能の著しい障害,右上肢の軽度の機能障害及び両上肢の機能全廃の障害名により身体障害者等級1級の認定を受けて身体障害者手帳の交付を受けた。

被告病院は,平成2年8月10日,患者との間で和解契約を締結し2000万円を支払った(「本件和解契約」)。

患者は,平成2年ころから,左上肢の機能の著しい障害,右上肢の機能の軽度の障害及び両下肢の機能全廃といった障害が発生し(「本件障害1」),平成10年ころから,1か月に1,2回,脊髄から両下肢にかけて激痛が生じるようになり(「本件障害2」),それら機能障害及び激痛が平成元年のケタラール注射によるものであるとして,担当医師個人に対し,損害賠償請求訴訟を提起した(本件障害1については本件和解解契約で2000万円支払われているので,本件障害2について,本件和解契約の際に予期できなかった後遺障害であるとして,損害賠償請求をした。)。

請求金額

2000万円

結  論

請求棄却

争  点

①患者に,平成2年ころから,左上肢の機能の著しい障害,右上肢の機能
の軽度の障害及び両下肢の機能全廃等の障害(本件障害1)が発生したか否か。
②ケタラール注射と①の障害の因果関係の有無
③患者に,平成10年ころから1か月に1,2回,脊髄から両下肢にかけて激痛(本件障害2)が生じるようになったか否か。
④ケタラール注射と③の障害の因果関係の有無
医療過誤 医療事故 弁護士68.png

内科における過去の医療過誤・医療事故の裁判事例。事案の概要・請求金額・結論・争点・認容額の内訳など。

慢性骨髄性白血病の発見時期,及び,抗うつ剤の使用に関して過失が否定されたケース

 

東京地方裁判所 平成11年(ワ)第20850号 損害賠償請求事件
平成13年9月27日判決
【説明・問診義務,検査,治療方法・時期】

<事案の概要>

平成2年5月23日,患者(大正10年生,女性)は,右下腹部の痛みを訴えて被告甲病院(大学病院)を受診した。患者に対し,精査が行われたが,痛みの原因は判明せず,担当のA医師,B医師,C医師は,患者に対して試験的開腹手術を行うこととし,同月28日,A医師が,開腹手術を施行し,回盲部の癒着を切離するとともに,索状物により絞扼されかかっていた虫垂が切除された。

平成9年3月10日,患者は,右下腹部の痛みを訴えて被告甲病院外科に入院し,翌日,精神科を受診して心気症と診断された。

同年12月15日,患者は,被告甲病院から,被告乙病院(大学病院)精神科へ転院した。D医師は,患者が抗生剤に対してまったく反応がないこと等から,血液疾患を疑い,平成10年3月13日,被告甲病院血液内科に精査を依頼したところ,同月31日,患者は慢性骨髄性白血病と診断された。同年4月3日,患者は,丙病院(大学病院)へ転院となり,平成11年7月14日,慢性骨髄性白血病により死亡した。

患者の夫が,被告甲病院及び被告乙病院を開設する法人に対し,損害賠償請求訴訟を提起した。

請求金額

3774万円

結  論

請求棄却

争  点

①虫垂の切除が患者に無断で行われたか否か。
②慢性骨髄性白血病の発見に遅滞があったか否か。
③抗うつ剤の過量,重複,乱用投与がなされたか否か。
医療過誤 医療事故 弁護士68.png

内科における過去の医療過誤・医療事故の裁判事例。事案の概要・請求金額・結論・争点・認容額の内訳など。

乳癌患者に対し一般的でない癌治療方法である免疫療法を実施するにつき,担当医師に説明義務違反があり,同医師と実質的に一体となって健康食品を販売していた薬局にも責任があるとされたケース

 

東京地方裁判所 平成16年(ワ)第1746号 損害賠償請求事件
平成17年6月23日判決 控訴 判例時報1930号108頁
【説明・問診義務,因果関係】

<事案の概要>

患者(昭和29年生,女性,エホバの証人信者)は,平成9年6月,左乳房の腫瘤を訴えて甲病院(大学病院)を受診し,検査の結果乳癌の疑いがあると診断された。患者は,同年7,8月ころ,テレビや書籍等で知った新免疫療法に関心を持ち乙病院(大学病院)のA医師を受診した。その時点で患者の左乳房の乳癌の大きさは3.5㎝X2.7㎝X1.8㎝で,近傍のリンパ節転移はなく,腹部内臓にも異常は見られず,炎症性乳癌ではなく,ステージⅡであった。患者は,平成14年8月まで,乙病院,被告診療所及び丙病院において,A医師から新免疫療法を受けた。

平成13年7月14日,被告診療所においてB医師は,患者を診察し,左乳房の癌が皮膚表面に侵食露出し,腐敗して出血を伴う状況(カリフラワー状)になっているのを認めた。B医師は,患者を自らが勤務する丁病院(総合病院)に紹介し,外科手術の検討のために諸検査を行ったが,左乳房の癌が胸壁筋肉へ浸潤し,他臓器への転移も認められたため,ホルモン治療,抗癌剤治療を実施した。患者は,乳癌が悪化し,本件訴訟係属中の平成16年2月18日に死亡した。

A医師は免疫学を専門とする医師で,平成7年,大学医学部助教授,平成10年5月から平成16年8月まで大学研究所教授として研究・診療に従事し,平成9年9月から被告診療所を開設して同クリニックでも診療をするようになった。A医師は,癌患者に対し新免疫療法と称する治療を実施し,一般向けに新免疫療法に関する書籍を出版し,講演等を行っていたほか,新免疫療法の実績等を示すウェブサイトを公開し,被告診療所を受診する患者に「新免疫療法(NITC)のご案内」と題するパンフレッ卜等を手渡していた。それらには,新免疫療法の内容・メカニズムの説明,新免疫療法の特徴として患者によっては劇的な治療効果が得られていること,癌の種類に関係なくどんな癌にも対応できること,抗癌剤と異なり副作用がほとんどないこと,QOL(生活の質)が高まること,抗癌剤や放射線治療の副作用も軽減することができることなどが記載され,驚異的な治療効果と題し,CR(著効。4週間以上癌が消失している状態)やPR(有効。癌が半分以下に縮小し4週間以上保てた場合)等の用語を用い,数値を挙げ画期的な実績があがっていることが記載されていた。 

被告診療所において実施された新免疫療法は,診察,腫瘍マーカーの測定等の検査,医薬品としてSPG(ソニフィラン),OK-432(ピシバニール),PSK(クレスチン),ビタミンD3(活性型ビタミンD),ウルソデオキシコール酸等の処方,被告薬局における健康食品であるILX,ILY,ベターシャークMC・LO,OG1・3A(ニゲロオリゴ糖),SIA,イミュトール,総合ビタミン等の処方というものであった。

患者(本件訴訟係属中に死亡し,患者の家族が承継)が,A医師及び被告薬局に対し,損害賠償請求訴訟を提起した。

請求金額

A医師に対し合計5407万6838円
(うち135万4919円については被告薬局と連帯) 
被告薬局に対し合計135万4919円
(A医師と連帯) 

結  論

一部認容(認容額 A医師に対し合計4991万4822円,被告薬局に対し合計135万4919円〔135万4919円についてA医師と連帯〕)

争  点

①A医師が,患者に対し,乳癌に手術適応があること及び新免疫療法の効果が低いことを説明せず,治療効果のない新免疫療法を勧めて手術を受ける機会を失わせた。 
②被告薬局は,患者に対し,自ら販売する健康食品等が,医薬品ではなく癌の治療効果を持たないことを告知すべきであったのにこれを怠り,新免疫療法の効果について患者が誤信しているのに乗じて高額の健康食品等の販売を行ったか。

認容額の内訳

1 A医師が賠償すべき損害

(1)逸失利益

2855万9903円

(2)慰謝料

2000万0000円

2 被告らが連帯して賠償すべき損害

医療費,薬品・健康食品購入費等

135万4919円

医療過誤 医療事故 弁護士68.png

内科における過去の医療過誤・医療事故の裁判事例。事案の概要・請求金額・結論・争点・認容額の内訳など。

敗血症で死亡した小児について,ボルタレン,ポンタール投与(処方)方法を誤った医師の過失が認められたケース

 

大阪地方裁判所 平成16年(ワ)第271号 損害賠償請求事件
平成18年1月25日判決 確定
【説明・問診義務,治療方法・時期,因果関係】

<事案の概要>

患者(平成10年生,男性)は,平成11年6月7日,被告医院を受診し,急性上道炎と診断され,その後も被告医院を受診した。患者の家族が,被告医師から処方されたポンタール,及びボルタレンを患者に投与したところ,患者は,同月9日に急変し,同月10日に死亡した。

患者の家族は,患者が死亡したのは,被告医師に問診,投薬等に注意義務違反があったからであるとして被告医師に対し損害賠償請求訴訟を提起した。

請求金額

合計5250万円

結  論

一部認容(認容額4642万8816円)

争  点

①問診義務違反の有無
②ポンタール,ボルタレン投与の過失の有無
③因果関係の有無

認容額の内訳

①患者の損害

(1)逸失利益

2122万8816円

(2)死亡慰謝料

2000万0000円

④葬儀費用

120万0000円

⑤弁護士費用

400万0000円

医療過誤 医療事故 弁護士68.png

内科における過去の医療過誤・医療事故の裁判事例。事案の概要・請求金額・結論・争点・認容額の内訳など。

開放性骨折に対する抗生剤の使用方法について,セファメジンとアミノグリコシド系抗生剤を併用投与すべき注意義務があったとして医師の過失が認められ,過失と患者の死亡との因果関係も認められたケース

 

大阪地方裁判所 平成14年(ワ)第6586号 損害賠償請求事件
平成17年12月21日判決 控訴
【治療方法・時期,因果関係】

<事案の概要>

患者(昭和46年生,男性)は,平成11年9月18日,トラックから荷下ろしの作業中,落ちてきた重量約250kgのポンプで右足が下敷きとなって,膝上約10cmの肉が裂け,踵が裂けぶら下がっているような状態になった。患者は,甲病院へ救急搬送され,X線検査の結果,大腿骨,腓骨,脛骨に骨折が確認された。同院の手術室に空きがなかったっことから,患者は,被告病院(公立病院)に転送された。

被告病院のA医師(整形外科)は,右踵部(足底)に約10cmの剥脱創,右大腿部に約7cmの内側広筋の筋断裂を伴う挫創を認めたため,これを洗浄・縫合し,創部感染予防に抗生剤セファメジンを投与し,骨折については経過観察とした。A医師は,右下腿については,コンパートメント症候群(筋膜で覆われる筋区画内部の圧が浮腫・出血などで亢進することで生じる病態)の発症を疑い,症状が急変する可能性を考え,患者を入院させた。9月19日夜,患者に,疼痛の増強と39.1度の熱発が生じ,20日,血圧が60㎜Hgまで低下し,血液検査でCRPや白血球の増加等が見られたことから,患者はICUに転棟となった。

救急診療科のB医師は,CPKが著増し,ドレーン排液が筋壊死成分由来と思われる臭気を帯びていたことなどから,大腿部筋挫滅壊死,大腿部コンパートメント症候群,圧挫症候群による全身状態の悪化と細菌感染症の可能性を考え,動脈血等の細菌培養検査を実施した。21日,右大腿部減張筋膜切開術が実施され,患者は一時的に意識や循環動態が改善したが,再び血圧が低下するなどした。B医師が開放創を観察したところ,内側広筋は壊死に陥り,同筋層内に新しくない黒色の壊死部が認められ,大腿から腰部に上向していた紫色皮膚変色部分は,右側腰部から腋窩部にまで達していた。B医師は,感染の合併が,全身状態悪化の大きな因子となっていると考えた。22日,患者に対しカコージンやボスミン(ともに昇圧薬)が投与されたが血圧は30台で,状態はさらに悪化し,同日,患者は死亡した。28日,21日に採取された動脈血からエロモナス・ヒドロフィラ菌が検出された。

患者の両親が,被告病院を経営する地方公共団体に対し,損害賠償請求訴訟を提起した。

請求金額

合計8222万2260円

結  論

一部認容(認容額 2名合計5928万6540円)

争  点

①患者が死亡した機序
②コンパートメント症候群の発症を看過し,減圧術の実施が遅れた過失の有無
③細菌感染防止のための早期治療を怠った過失の有無
④死亡との因果関係の有無

認容額の内訳

①逸失利益

2828万7199円

②死亡慰謝料

2000万0000円

③遺族固有の慰謝料

各200万0000円

④葬儀費用

各34万9670円

⑤弁護士費用

各265万0000円

医療過誤 医療事故 弁護士68.png

内科における過去の医療過誤・医療事故の裁判事例。事案の概要・請求金額・結論・争点・認容額の内訳など。

介設老人保健施設における体重等の管理及び転院時期に関し,被告施設の過失が認められなかったケース

 

東京地方裁判所 平成14年(ワ)第28189号 損害賠償請求事件
平成16年4月19日判決 控訴
【入院管理,転医義務】

<事案の概要>

患者(大正10年生,男性)は,平成12年8月ころから痴呆症状を生じ,在宅介護が困難となったため平成13年4月,甲病院に入院し,同年10月3日,被告施設(介護老人保健施設)に入所した。被告施設は,患者に対し,1日当たり1600kcalを目安に食事を出し,患者はほぼ全量を摂取していたが,患者の体重は,入所時46.4kgであったものが,同年12月22日には43kg,平成14年1月22日には43.35kgに減少した。

患者は,同年2月3日,風邪の症状が出て,翌4日の昼食の摂取量は1割であった。同日午後8時以降,解熱剤が投与されたが,37度を超える発熱があり,湿性せきが認められ,痰の吸引が行われ,肺雑音も認められた。同日午後8時10分,患者の収縮期血圧は62㎜Hgまで低下し,同月5日午前1時20分,102㎜Hgまで回復したが,同日午前5時には69㎜Hgへ低下した。被告施設の常勤医師であり施設長であった担当医師は,同月4日午前10時に患者を診察した後,患者を診察しなかった。

患者は,同月5日午前10時ころ,乙病院に転院したが,既に重症肺炎に罹患しており,同年3月2日,肺炎により死亡した。

患者の子(娘)は,被告施設を開設する法人に対して,損害賠償請求訴訟を提起した。

なお,原告は,被告施設の施設長が,面談の際,原告を一方的に罵倒したり,原告の面会を3日に1回に制限したことが違法である旨も主張し,裁判所は,面会制限が不法行為を構成するとして慰謝料20万円の限度で請求を認めた。

請求金額

合計2000万円

結  論

一部認容(認容額 20万円 面会制限に関するもの)

争  点

①患者の健康管理に配慮して体重減少を未然に防止すべき義務違反の有無
②患者を,平成14年2月4日の昼食時,同日午後4時20分,同日午後6時のいずれかの時点で転院させるべきであったか否か。

認容額の内訳

慰謝料

20万円(面会制限に関するもの)

医療過誤 医療事故 弁護士68.png

内科における過去の医療過誤・医療事故の裁判事例。事案の概要・請求金額・結論・争点・認容額の内訳など。

自己末梢血幹細胞移植併用大量化学療法に関する説明が不十分で手術適応が認められないとして病院の責任が認められたケース

 

東京地方裁判所 平成13年(ワ)第10869号 損害賠償請求事件
平成16年3月31日判決
【説明・問診義務,検査,入院管理,適応,因果関係】

<事案の概要>

患者(昭和18年生,女性)は,平成10年11月,被告病院(国立病院)において悪性リンパ腫(ろ胞性大細胞型B細胞型に分類される中悪性度非ホジキンリンパ腫)と診断され,同病院へ入院し,化学療法(抗癌剤治療)を受けていたが,平成11年3月末,完全寛解(CR)判断され,被告病院を退院した。

患者は,同年4月14日から平成12年1月19日まで,被告病院を外来受診して検査を受けるなどしていた。同年2月3日,患者が,甲医院(個人病院)を受診したところ,超音波検査の結果,左上腹部に最大79X51X37mmの腫瘤が3個検出されたため,同日,被告病院に再度入院し,CT検査及びMRI検査等の検査を受け,悪性リンパ腫の再発と診断された。

患者に対し,通常量サルベージ療法(初発の悪性リンパ腫に対して用いた薬剤に対し非交差耐性の抗癌剤を通常量用いる方法)であるESHAP療法が3回行われたが,CR又は部分寛解(腫瘍が50%以上縮小したものの,消失しない状態が4週間以上継続している場合をいう[PR])には至らなかった。

同年5月27日から自己末梢血幹細胞移植併用大量化学療法(「本件療法」)が実施されたが,患者は,同年7月5日,多臓器不全により死亡した。なお,同年6月1日,患者は,病室内の洗面所に行こうとしてふらつき,転倒して顔面を強打した。

患者の夫が,被告病院を開設する国に対し損害賠償請求訴訟を提起した。

請求金額

1361万7151円

結  論

一部認容(認容額 1161万7151円)

争  点

①ずさんな経過観察を行った過失の有無,死亡との因果関係
②本件療法の適応がないのにこれを実施したことなど,本件療法の実施自体及び実施方法に裁量を逸脱した治療行為を行った過失の有無,死亡との因果関係
③本件療法に関する説明義務違反の有無,死亡との因果関係
④患者の転倒事故に関する担当医師及び看護師の過失の有無

認容額の内訳

①本件療法実施後の治療費等

116万7151円

②葬儀費用等

145万0000円

③患者の慰謝料

500万0000円

④患者の夫固有の慰謝料

300万0000円

⑤弁護士費用

100万0000円

医療過誤 医療事故 弁護士68.png

内科における過去の医療過誤・医療事故の裁判事例。事案の概要・請求金額・結論・争点・認容額の内訳など。

血液濾過透析を施行するためカテーテルを心臓方向に向けて挿入した際,カテーテルの留置位置を慎重に確認し,カテーテル先端部が心筋を穿孔して心タンポナーデを合併する危険性がある位置にカテーテル先端部を留置しないよう注意すべき義務を怠った過失が認められたケース

 

大阪地方裁判所 平成14年(ワ)第9797号 損害賠償請求事件
平成16年2月16日判決
【手技】

<事案の概要>

患者(昭和30年生,女性)は,平成12年1月25日,劇症肝炎の疑いで,甲病院から被告病院(大学病院)の高度救命救急センターに転院した。患者は、被告病院で,劇症肝炎(B型)及び腎不全と診断され,同月26日,意識障害,羽ばたき振戦などの肝性脳症の症状が現れ始め,犬山分類Ⅱ度であったため,血漿交換のほか,腎不全につき,CHDF(緩徐持続的血液濾過透析)が開始された。

その後,肝性脳症が,犬山分類Ⅲ度にまで重症化したため,他大学病院と相談の上,生体肝移植実施の準備が進められた。

A担当医師は,患者が引き続きCHDFを行う必要性が高いと判断し,同月31日午後7時46分ころ,カテーテル(脱血孔がカテーテル先端部よりも数cm手前にあるサイドホール型カテーテル)挿入部位をそけい部から内頚静脈に変更し,上大静脈内やや浅めに脱血孔を留置し,胸部レントゲン写真撮影でカテーテル先端部の位置を確認し,CHDFを行った。

当直のB医師は,A医師から,同日午後8時ころ,カテーテル位置の引継を受けたが,間もなくCHDFが脱血不良を数回起こしたことから,カテーテルの脱血孔を流血量のより多い位置へ移動させることとし,右心房の方向に移動させ,十分な脱血量を得ることができたと考えた位置に留置したが,胸部レントゲン検査をしてカテーテル先端部の正確な位置を確認することはしなかった。

以後,CHDFを継続したが,同日午後11時58分ころ,患者の血圧が急激に低下し,翌2月1日午前0時3分心停止に至った。同日午前0時10分ころ,心エコー検査で心タンポナーデを引き起こしていることが確認されたため,経皮的ドレナージの後,同日午前0時17分ころ,緊急開胸手術によって,ドレナージ及び心臓マッサージが行われ、同日午前O時22分ころ,拍動が再開した(心停止時間約20分間)。

同日午前5時30分ころ,患者の開胸止血手術を行い,右心房底部に穿孔を認めたため,カテーテル先端部で患者の右心房底部の心膜内壁に穿孔が生じ,これに起因して心タンポナーデを合併し,低酸素脳症を発症して遷延性意識障害に陥ったものと判断された。患者の障害は現在まで残存しているが,劇症肝炎及び腎不全は,治癒した。

患者が,被告病院を開設する国に対し,損害賠償請求訴訟を提起した。

請求金額

合計 1億3948万5670円

結  論

一部認容(認容額 合計1億2997万7400円)

争  点

①カテーテル操作手技上の過失ないし義務違反
②経過観察上の過失ないし義務違反
③経過観察を怠ったことと後遺障害との因果関係

認容額の内訳

①医療費

234万1550円

②親族付添看護費(症状固定日まで)

264万5500円

③入院雑費(症状固定日まで)

35万4162円

④親族付添看護費(症状同定後)

3694万0482円

⑤休業損害 

181万4702円

⑥逸失利益 

4675万1004円

⑦入院慰謝料

313万0000円

⑧後遺障害慰謝料

2700万0000円

⑨弁護士費用

900万0000円

医療過誤 医療事故 弁護士68.png

内科における過去の医療過誤・医療事故の裁判事例。事案の概要・請求金額・結論・争点・認容額の内訳など。

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の患者に対する療養指導義務違反を認め,腕の切断を避け得た相当程度の可能性の侵害を肯定したケース

 

大阪地方裁判所 平成13年(ワ)第4377号 損害賠償請求事件
平成15年9月17日判決
【治療方法・時期,因果関係】

<事案の概要>

患者(昭和27年生,男性)は,慢性腎不全で昭和62年12月ころから,左腕の内シャントによる血液透析を受けていたが,平成6年ころから,左腕の動脈を表在化させ(動脈を遊離して皮下に移すこと),同所に針を刺して行う方法により血液透析を受けるようになった。平成7年9月から,患者は、担当医師が開設した人工透析専門病院である被告クリニックに通院し,血液透析を受けていたが,その後,同部分に動脈瘤が生じた。

患者は,平成12年9月20日に被告クリニックで血液透析を受けた時は異常がなかったが,翌21日午前,穿刺部(動脈瘤から1cmほど離れた動脈部分)がかゆくなり,同日午後2時半ころ,穿刺部が赤く腫れ,膿が出るなどしたため,午後2時40分ころ,被告クリニックを訪れた。担当医師は、看護師長から、患者の穿刺部が赤く腫れ,少量の膿が出ていたが,圧痛はなく,かゆみがある状態で,全身状態は,発熱もなく元気であったとの報告を受け,看護師長を通じて,穿刺部を外用消毒剤のイソジンで消毒し,抗生物質の含まれているゲンタシン軟膏を塗布し,抗生物質のセフゾンと消炎鎮痛剤のロキソニンをそれぞれ2日分処方し,翌朝来院するよう指示した。患者は,その場で,セフゾン1錠を服用したが,同日午後4時ころから,熱感があって具合が悪く,午後7時前には体温が40度を超え,下痢が始まり,午後9時前には体温が40度以上となったため,午後9時過ぎころ,被告クリニックに連絡した。担当医師は,翌朝診察し,必要なら血管の手術ができる病院を紹介するので,それまではボルタレン座薬を使うなどして様子を見て,何かあれば連絡するよう指示した。

患者は,午後10時前にボルタレン座薬を入れたが,下痢ですぐ薬が外に出てしまい,熱は下がらず,下痢も継続した。

患者は,翌22日午前4時過ぎ,熱が39度2分あり,2個目のボルタレン座薬を入れた午前6時ころ,両足が白く冷感や痛みを感じたので,被告クリニックに連絡したところ,病院に行くよう指示され,午前6時55分ころ,救急車を呼ぴ,午前7時28分ころ,甲病院(国立病院)に搬送された。同病院において,患者は、敗血症性ショック,左総腸骨動脈血栓症の診断を受け,同日,左大腿動脈経皮的緊急血栓除去手術を受けるとともに,血液検査を受けた。検査の結果、同月27日、敗血症の原因菌がMRSAであることが判明した。患者は,抗生剤の多剤併用投与を受け,一時好転の兆しが見られたが,その後症状が悪化し,同月28日,左上腕切断手術を受けた。

患者は,被告クリニックを開設する担当医師に対し,損害賠償請求訴訟を提起した。

請求金額

1億3877万7916円

結  論

一部認容(認容額 170万円)

争  点

①担当医師は,平成12年9月21日午後2時40分ころに患者が来院した時点で,感染症を疑い,自ら必要な検査,診断,治療をするか専門医にさせるべき義務があったか。仮に,この時点で,患者を帰宅させる場合でも,患者に対し,MRSA感染及び敗血症について説明し,発熱,悪寒,下痢,頻脈,呼吸の乱れなどの異常があれば直ちに被告クリニックもしくは専門病院に連絡し,指示を仰ぐなどの具体的教示・指導を行うべき義務があったか。
②担当医師は,平成12年9月21日午後8時ないし午後9時ころ,患者の家族から電話連絡を受けた時点で,MRSA感染症,敗血症を疑い,直ちに専門医のいる救急病院に入院させ,適切な検査,診断,治療を受けさせるべきであったか。
③上記①又は②の過失と,患者の左上腕切断との因果関係の有無

認容額の内訳

①慰謝料

150万円

②弁護士費用

20万円

医療過誤 医療事故 弁護士68.png

内科における過去の医療過誤・医療事故の裁判事例。事案の概要・請求金額・結論・争点・認容額の内訳など。

糖尿病の検査等が遅れたことについて担当医師の債務不履行責任が肯定されたケース

 

東京地方裁判所 平成13年(ワ)第16065号 損害賠償請求事件
平成15年5月28日判決
【検査,入院管理,因果関係,損害論】

<事案の概要>

患者(昭和21年生,女性)は,平成4年9月28日,息切れ,めまい,動悸の症状を訴えて被告病院(総合病院)の内科を受診し,高血圧,狭心症,高脂血症,痛風の診断で治療を受けることとなった。血液生化学検査の結果,血糖値が289,尿素窒素が24.5,クレアチニンが1.6であった。

同年10月5日,患者は,息切れ,手指の関節痛の症状を訴え,血圧は130/90であった。患者は,担当医師に対し,以前の病院で「7,8年前から中間糖尿病と言われていた」と述べたが,担当医師は,9月28日の血糖値が289と高値であったことなどから,ブドウ糖負荷試験をするまでもなく,それほど重くない糖尿病であると判断し,患者に対し「太っているから腹八分目にして,毎日よく体を動かすように」と指示をした。担当医師は、尿素窒素とクレアチニンについては,数値が参考値を上回っていたので軽い腎機能障害が生じていると考えたが,軽いので、腎機能検査は行わなくてよいと判断した。

その後,診察の都度,患者に対し,血圧測定と薬の処方が行われた。平成5年2月4日の血圧は148/92で,胸部レントゲン検査の結果や患者の症状から,陳旧性脳血管障害,虚血性心疾患,糖尿病,高脂血症,うっ血性心不全と診断がされた。

同月23日の血圧は170/90,3月15日の血圧は200/100であった。4月11日,血糖値は248であり,患者は,糖尿病との確定診断を受けた。尿検査の結果は,蛋白半定量++,卵円形脂肪体+,硝子円柱+++,顆粒円柱++で,腎機能異常が示唆された。

担当医師は,患者に対しダイエットを指示し,次回からは毎回,空腹時血糖を検査するとした。ヘモグロピンA1cの検査結果は,7.1で,食前の空腹時血糖値は,4月25日が125,5月12日が110,5月30日が114であった。

患者は,6月3日深夜,自動車の助手席に乗車中に衝突事故に遭い,救急車で被告病院に搬送され,脳震盪の疑いで外科に入院した。入院時の計測では,身長が150cm,体重が74kgであった。診察の結果,頭部打撲,脳震盪,右肩右下肢打撲のほか,貧血,腎機能障害,糖尿病,狭心症,高血圧と診断された。検査の結果では,尿素窒素51.6,クレアチニンが5.3であり,腎機能の著しい悪化が認められた。

6月4日の検査では,尿素窒素が46.9,クレアチニンが5.6であり,同月7日の検査では,尿素窒素が44.8,クレアチニンが5.9であった。7月16日の血圧は164/108,血糖値は98であったが,患者は両手がしびれていた。担当医師は,交通事故で入院した際の検査結果から,腎障害が急に進んでいたと考え,糖尿病性腎症の悪化と判断した。しびれの原因については,交通事故か糖尿病性神経障害のいずれかと考えた。

担当医師は,患者に対し,7月16日,「腎症状が悪化している。活性酸治療で1日30錠の薬を飲めば1年はもつが,その後は人工透析にならざるを得ない」旨を説明をした。患者は,8月10日午後,左手内シャント造設手術を受けた。8月13日には尿素窒素が88.5,クレアチニンが10.5と上昇したので,8月16日,右大腿静脈にカテーテルを留置して人工透析が導入された。

患者は,4年間以上にわたり人工透析治療を受けたが,平成10年4月27日,慢性腎不全により死亡した。

患者の夫と子5人は,被告病院を開設する組合に対し,損害賠償請求訴訟を提起した。

請求金額

合計 2500万円

結  論

一部認容(認容額 合計 1600万円)

争  点

①腎機能の悪化に対する検査を行う義務があったか。
②慢性腎不全の原因は糖尿病性腎症か。
③損害額

認容額の内訳

患者本人の慰謝料

1600万円

医療過誤 医療事故 弁護士68.png

内科における過去の医療過誤・医療事故の裁判事例。事案の概要・請求金額・結論・争点・認容額の内訳など。

悪性リンパ腫の治療に関して説明義務違反が認められたケース

 

大阪地方裁判所 平成13年(ワ)第3804号 損害賠償請求事件
平成15年4月25日判決
【説明・問診義務,治療方法・時期,損害論】

<事案の概要>

患者(昭和14年生,男性)は,右頸部リンパ節の腫脹を訴えて,近医の紹介で,平成8年5月に被告病院(高次医療機関)を受診した。患者は,被告病院においてリンパ節生検等の検査を受け、その結果,悪性リンパ腫の一種である非ホジキンリンパ腫(NHL)末梢T型細胞型で,病期はⅢ期であることが判明した。

被告病院の担当医師は,同年6月から,NHLに対する標準的治療法であるCHOP療法(シクロフォスファミド等,4種類の薬剤の投薬を21日ないし28日ごとに6回繰り返すことを内容とする)と同等の化学療法の実施を開始し,同年8月10日までに第4クールの投薬を完了し,同月26日から第5クールの投薬を,9月11日から第6クールの投薬をそれぞれ開始し,同月15日に完了した。同年8月26日に実施された血液検査でGOT190,GPT324であり,同月31日,B型肝炎ウイルス(HBV)に感染していることが判明していた。

患者は、同年9月20日ころから肝機能障害が見られ,急性B型肝炎を発症し,劇症肝炎から肝性脳症となり,11月19日に死亡した。

患者の家族が,被告病院を開設する地方公共団体に対し,損害賠償請求訴訟を提起した。

請求金額

合計 7005万0663円

結  論

一部認容(認容額合計 330万円)

争  点

①担当医師は,8月26日,第5クールの薬剤投与を開始すべきでなかったか。
②担当医師は,9月11日,第6クールの薬剤投与を開始すべきでなかったか。
③担当医師は,患者に対し,患者がHBVに感染していることが判明したことを前提として,化学療法を実施した場合に肝炎が劇症化する危険性があることを説明すべきであったか。

認容額の内訳

①慰謝料

300万円

②弁護士費用

30万円

医療過誤 医療事故 弁護士68.png

内科における過去の医療過誤・医療事故の裁判事例。事案の概要・請求金額・結論・争点・認容額の内訳など。

下垂体腫瘍に対する治療につき,腫瘍の発見が遅れた過失が認められたケース

 

東京地方裁判所 平成12年(ワ)第23585号 損害賠償請求事件
平成14年4月8日判決
【説明・問診義務,治療方法・時期】

<事案の概要>

患者(女性)は,平成11年1月ころから,視力低下や視野異常を感じ始め,同年3月ころから近くの眼科の開業医等で診察を受けたが,検査で視野異常は認められず,視力低下は加齢によるものと診断された。

患者は,その後も視野異常が治らないため,眼科ではなく内科領域に原因があるのではないかと考え,同年4月に被告病院(大学病院)内科を受診し,A医師の診察を受け,それ以後被告病院内科及び眼科において診察・治療を受けた。

患者は,同年5月19日に眼科で行われたハンフリー検査で左眼に視野異常が認められたことから,同月21日,内科の診察時に,A医師にその旨を伝えたが,A医師は,同時点で眼科からハンフリー検査の結果が伝えられていなかったため,下垂体腫瘍の有無を調べるホルモン検査等は行わなかった。

同年6月4日,A医師は,眼科のB医師に対して視野検査の結果等を問い合わせる旨などが記載された診療依頼状を作成し,患者に交付したが,患者は,ゴールドマン視野検査の予約をしていた同年8月4日まで眼科を受診しなかった。そのため,B医師が上記依頼状を読んだのは,ゴールドマン視野検査の結果を受けてB医師による診察が行われた同月18日であった。

A医師は,眼科から返信された視野検査結果を踏まえてMRI検査及びホルモン検査を行い,同年9月,成長ホルモン・プロラクチン産生下垂体腫瘍と確定診断し,患者に対し,カパサールの投薬治療を行った後,同年12月,下垂体腫瘍摘出術を実施したが,同手術後も患者には下垂体腫瘍がわずかに残存した。

患者は,A医師及び被告病院を設置する法人に対し,損害賠償請求訴訟を提起した。

請求金額

1120万円

結  論

一部認容(認容額130万円)

争  点

①下垂体腫瘍の治療措置が遅滞した注意義務違反の有無
②カパサール投与についての説明義務違反の有無

認容額の内訳

①慰謝料

100万円

②弁護士費用

30万円

医療事故・医療過誤(医療ミス)について法律相談をご希望の場合には,『医療事故調査カード』をダウンロードし,必要事項をご記入の上,当事務所宛にご郵送ください 担当弁護士が内容を拝見した後,ご相談日をご連絡いたします 電話相談も可能です

 歯科・精神科・美容のご相談は受け付けておりません

光樹(こうき)法律会計事務所 

〒100-0005 東京都千代田区丸の内2丁目5番2号 三菱ビル9階 969区

※丸ビルの隣、KITTEの向かい

TEL:03-3212-5747(受付:平日10:30~17:00)

F A X  :03-3212-5740

医療事故・医療過誤(医療ミス)についての法律相談をご希望の場合には、下記『医療事故調査カード』をダウンロードし、必要事項をご記入の上、当法律事務所宛にご郵送ください。なお、歯科・精神科・美容相談は受け付けておりません

※担当弁護士が内容を拝見した後、ご相談日をご連絡いたします。