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呼吸器内科における過去の医療過誤・医療事故の裁判事例。事案の概要・請求金額・結論・争点・認容額の内訳など。

入院患者の病状を当直医に引き継がなかった過失,ハロペリドール(抗精神病薬)の適応外使用及び慎重投与義務違反の過失がいずれも認められなかったケース

 

大阪地方裁判所 平成15年(ワ)第13753号 損害賠償請求事件
平成18年6月30日判決
【入院管理,適応,治療方法・時期,因果関係】

<事案の概要>

 患者(当時31歳,女性)は,平成10年ころより,市が設置・運営する被告病院(公立病院)のA医師(内科医)を含む複数の医師から,自己免疫疾患の疑いがあると診断された。A医師は,シェーグレン症候群を疑ったものの確定診断には至らず,甲国立病院の医師は成人スチル病であると診断していたが,検査結果や臨床症状等は,いずれの病型にも典型的に当てはまるものではなかった。
 患者は,自己免疫疾患に対し効果があるとされるステロイド剤による治療を受けないまま,自宅療養を続けていたが,平成13年10月14日,意識消失発作を起こして被告病院内科に入院した。A医師は,意識消失発作の原因や自己免疫疾患の病型等を診断するため,検査等を行ったが,確定診断には至らなかった。検査結果等によれば,患者には,るいそう(高度な蛋白カロリ一栄養失調症)及び低栄養状態,強度の貧血,GOT値及びALP値の上昇,慢性腎不全,肝臓腫大等の異常が認められ,貧血に関する検査数値が徐々に悪化する傾向にあった。
 患者は10月25日,38.6℃,同月30日,38.1℃の発熱がそれぞれ認められ,11月1日午後4時15分ころには38.8℃まで熱発し,咳,発赤,残尿感,頻尿,肺雑音,息苦しさ,チアノーゼは認められなかったものの,SpO2が89%〜91%,頻呼吸,頻脈を生じていた。A医師は,自己免疫疾患の増強又は感染症の発症を疑い,翌日血液検査,細菌培養検査及びレントゲン検査を行うこととした。
 11月2日午前6時,患者の体温は36.8℃になり,呼吸状態は,午前6時の時点でSpO2が85%で依然として頻呼吸ではあったが,呼吸数は毎分28〜26回へ回復し,呼吸苦は見られず,入浴したり,デイルームで昼食を取ることができる状態であった。同日実施された血液検査の結果,白血球数は1万7080,CRP値は10.98であった。同日午前中に実施された胸部レントゲン検査の結果,A医師は,左下肺野に認められた粒状ないし線状の浸潤影から軽い気管支肺炎を,右下肺野に認められた胸膜の変化像から胸水ないし胸膜炎を疑い,間質性肺炎の鑑別のため午後に胸部CT検査を実施することとし,同日午後から抗生物質(ベントシリン,トブラシン)の点滴投与を開始した。
 同日午後に撮影された胸部CT写真上,間質性肺炎像は認められなかった。
 A医師は,上記各検査の結果に加え,患者の呼吸困難・肺雑音の不存在の事実や午後の体温等から,重症化する所見はないと判断し,同日午後6時ころ被告病院を退出した。このころ患者はリハビリを受けていた。同日に実施された細菌検査の結果,咽頭粘液及び便の培養検査等でいくつかの細菌が検出され,同日に撮影されたレントゲン及びCT検査の結果,間質性肺水腫又はリンパ増殖性疾患の可能性が疑われたが,A医師が上記細菌検査の結果及び放射線科医師の所見について報告を受けたのは,患者の死亡後であった。
 患者は,11月2日午後8時36分以降,呼吸苦で何度かナースコールをし,同日の当直医であったC医師が診察したところ,過換気症候群が疑われ,酸素投与等を行いながら経過観察となった。
 翌3日午前2時45分ころ,看護師は,過換気状態でパニックになっている患者に対し,C医師の指示により,アタラックスP1アンプルを筋肉注射した。午前4時25分ころ,患者からナースコールがあり,呼吸苦を訴えた。看護師は,C医師の指示によりハロペリドール(抗精神病薬)を投与した。
 同日午前9時ころ,B医師(内科医)はC医師から当直を引き継ぐ際,C医師から当直日誌の記載を示されながら患者の病状について,過換気症候群が出現したので,アタラックスPを投与したが,余り効かなかったため,ハロペリドールを筋肉注射したところ,睡眠が取れた旨申し送りを受けた。
 同日午前11時過ぎ,B医師は,心電図検査に加え,血液ガス分析検査を実施し,過換気状態の他,重篤な代謝性アシドーシスと低酸素血症を発症していると判断し,毎分5リットルの酸素を酸素マスクにより投与して経過観察することとした。
その後,看護師から患者の病状や検査結果の連絡を受けたA医師からの指示で,午後1時30分ころ,患者に対しケイテン(第4世代の抗生物質)及び生理食塩水の点滴投与が実施された。
 午俊3時過ぎころ,D看護師は,B医師に対し,上記抗生剤の点滴とその後の患者の過換気状態と頻繁な訴え,SpO2(94%〜96%),血圧(88/68),脈拍(130台)の値を報告し,指示を求めた。B医師は,申し送りの際にC医師から,ハロペリドールで鎮静効果があったことを聞いていたことから,代謝性アシドーシスを防止するために頻呼吸による低換気状態を改善し,かつ,頻呼吸による呼吸筋の疲弊を予防するために,ハロペリドールを投与し鎮静化させる必要があると判断したが,被告病院内の別の場所において,脳梗塞により被告病院に入院することとなった他の患者の処置を行っていたこともあって,電話でD看護師に対し,ハロペリドール1アンプルを筋肉注射するよう指示し,午後3時15分ころ,D看護師により,患者に対しハロペリドール1アンプルが筋肉注射された。
 午後3時30分ころ,患者の姉が,患者の目が上転し,手を胸の前でグーの状態で握りしめるなと硬直状態にあるのに気付き,直ちに部屋を出て廊下にいた看護師に異常を訴えた。看護師が訪室したところ,患者は「うーうー。」とうなりながら眼球が上転した状態であったため,他の看護師を呼び,B医師に連絡するよう指示した。
 看護師らは蘇生のための機器を準備し,心電図モニター等を設置したところ,患者は,心停止及び呼吸停止の状態であった。B医師は,間もなく患者の下へ駆けつけ,患者が心肺停止状態にあることを確認したことから,看護師らとともに,心臓マッサージを行い,アンビユーバッグによる送気を行った。午後3時35分ころ,B医師は,看護
師らに対し,エピクイック(昇圧剤)2アンプルを側管より注入し,メイロン250mlの点滴を急速に静脈から投与するよう指示し,これらの処置により,患者の心拍数は100台で再開し,自発呼吸も出現した。このころ,集中治療室の当直医師であったE医師が,B医師の指示に応じて駆けつけ,午後3時45分ころ,患者に対し気管内挿管を行ったが,自発呼吸があったので,アンビューバッグによる呼吸コントロールを行った。そのころF医師も患者の救命措置に加わった。
 午後4時ころ,状態が安定したため,患者は個室に移された。しかし午後4時11分以降,心拍数が30台に低下したため,人工呼吸器を装着するなどしたが,午後9時1分,患者の死亡が確認された。
 翌4日,被告病院において実施された患者の病理解剖の結果,両側気管支肺炎及び肺鬱血水腫,るいそう等とされたが,間質性肺炎とはされなかった。
 患者の両親は,被告病院を設置・運営する市に対し損害賠償請求訴訟を提起した。

請求金額

合計8384万円

結  論

請求棄却

争  点

①A医師の当直医に対する引継ぎにおける過失の有無
②B医師のハロペリドールの適応外使用に関する過失の有無
③B医師のハロペリドールの慎重投与に閲する過失の有無
④A医師及びB医師の各過失と患者の死亡との間の因果関係の有無
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循環器内科における過去の医療過誤・医療事故の裁判事例。事案の概要・請求金額・結論・争点・認容額の内訳など。

肺ガンで死亡した患者について,当初のレントゲン検査での異常陰影の見落としが否定され,その後のレントゲン検査で肺ガンを疑われたが,患者が精査を頑なに拒否していたという事実関係の下では医師がそれ以上の説得をしなかったからといって債務不履行には当たらないとされたケース

 

大阪地方裁判所 平成16年(ワ)第7121号 損害賠償請求事件
平成18年4月7日判決 請求棄却・控訴・控訴棄却・上告

【検査】

<事案の概要>

 患者(大正11年生,男性)は,2度の肺結核,ヘルニア,胃潰瘍の既往があり,被告病院(個人病院)をかかりつけ医院としていた。患者は,平成12年8月23日,被告病院で胸部レントゲン検査及び心電図検査を受けた。担当医師は,同年5月19日に撮影した胸部レントゲン写真と比較した結果,肺野の外側等に白い陰影を認めたが,3か月間で特に変化がなかったことから,問題ないと判断し,心電図にも異常を認めなかった。同年11月20日,患者は再度胸部レントゲン写真撮影及び心電図検査を受けた。担当医師は,8月の画像と比較し,右肺野に結節影があり,その周囲が明確になるとともに大きくなっていたことから,肺ガンの疑いを抱いた。
 担当医師は,同年12月2日,患者に対し,肺ガンの疑いのため,専門医による検査
を受けるよう勧めたが,患者は自覚症状がなかったため,頑なにこれを拒否した。
 その後,担当医師から患者に対し,胸部レントゲン写真の所見等を踏まえた説得がされた結果,患者は,平成13年2月14日,甲病院(大学病院)を受診し,各種検査を受けた。その結果,積極的な治療法ができないほど進行した肺ガンであると診断され,患者は,同年8月13日,肺ガンのため死亡した。
 患者の遺族(妻と子の一人)は,被告病院を開設する被告に対し,患者が死亡したのは異常陰影を見落とすなどした担当医師(履行補助者)の過失であるとして債務不履行に基づき,一部請求として,損害賠償請求訴訟を提起した。

請求金額

1600万円

1635万5340円のうち一部請求,患者に生じた損害額は2453万3010円であるが,そのうち相続人の一部が,相続分に該当する1653万5340円のうち1600万円を請求した。)

結  論

請求棄却

争  点

①平成12年8月23日時点の胸部レントゲン検査による異常陰影の見落としの有無
②同年11月20日時点の胸部レントゲン検査による診断及び指示の適否
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呼吸器内科における過去の医療過誤・医療事故の裁判事例。事案の概要・請求金額・結論・争点・認容額の内訳など。

気管カニューレを装着した患者について,担当医師らに,痰による気道閉塞及び呼吸困難を防止すべき注意義務を怠った過失が認められたケース

 

東京地方裁判所 平成15年(ワ)第17379号 損害賠償請求事件
平成18年3月6日判決 確定
【入院管理,治療方法・時期,損害論】

<事案の概要>

患者(昭和19年生,女性)は平成14年2月11日,自宅トイレで倒れて救急車で大学病院に運ばれ入院した。患者は,意識障害と右片麻痺があり,左視床出血及び脳室内穿破と診断れ,血圧コントロールによる保存的治療が行われた。患者は,入院中,嘔吐や痰が多く,呼吸状態の悪化が心配されたため,気管内挿管による呼吸管理が行われ,同月19日には肺炎及び誤嚥等の予防のため,気管切開術が実施された。患者は,左視床出血及び肺炎等の症状が安定してきたため,3月1日に被告病院に転院した。

患者は,被告病院において,呼吸管理を含むフォロー・アップを受けていたが,同月6日午前11時30分ころ,装着した気管カニューレが痰で閉塞して窒息し,低酸素脳症に陥って植物状態になった。

患者及びその子(2名)が,被告病院を経営する法人に対し,損害賠償請求訴訟を提起した。

請求金額

合計1億3119万5395円

結  論

一部認容(認容額 合計6654万3296円)

争  点

①呼吸管理に関する過失の有無
②救命救急処置に関する過失の有無
③損害額

認容額の内訳

①治療費

502万1296円

②入院雑費

1252万2000円

③逸失利益

1500万0000円

④患者の慰謝料

2000万0000円

⑤患者の子らの慰謝料

各400万0000円(計800万0000円)

⑥弁護士費用

600万0000円

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呼吸器内科における過去の医療過誤・医療事故の裁判事例。事案の概要・請求金額・結論・争点・認容額の内訳など。

肺炎の患者に対する呼吸管理について担当医師と看護師の不法行為責任が認められたケース

 

東京地方裁判所 平成13年(ワ)第9113号 損害賠償請求事件
平成15年5月26日判決
【治療方法・時期,因果関係,その他】

<事案の概要>

患者(昭和51年生,女性)は,平成9年5月初めころから咳や痰が出始め,微熱や食欲不振を覚えるようになったことから,個人病院で点滴治療を受けるなどしていたが,症状が改善しないため,同月12日,被告病院(大学病院)呼吸器外来を受診し,診察の結果,肺炎と診断されて緊急入院することとなった。

被告病院において,患者に対し,動脈血ガス分析検査を行われ,検査結果に基づいて100%酸素マスクによる酸素投与が行われたが,患者は,同月16日に呼吸停止・心停止状態に陥り,以後,植物状態となり,現在に至っている。

患者とその両親は,担当医師には,遅くとも平成9年5月15日までには,患者に対して機械的人工呼吸を行うべきであったのにこれを怠ったという呼吸管理上の過失があり,これにより患者が植物状態に陥ったなどと主張して,被告病院を開設する法人に対し,損害賠償請求訴訟を提起するとともに,患者に継続的診療契約に基づき,適切な治療を受け続ける権利があることの確認を求める訴えを提起した。

請求金額

合計7570万1361円

結  論

一部認容(認容額4名合計6889万9356円)

争  点

①肺塞栓症についての検査義務違反の有無
②検査義務違反と患者の死亡との間の因果関係の有無

認容額の内訳

患者について生じた損害

①治療費及び入院費

290万0000円

②過去の付添看護費

1123万2000円

③入院雑費

243万3600円

④将来の付添介護費

4121万4705円

⑤逸失利益

7187万9626円

⑥慰謝料

2500万0000円

⑦弁護士費用

1000万0000円

患者の両親について生じた損害

①慰謝料

各200万0000円

②弁護士費用

各25万0000円

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呼吸器内科における過去の医療過誤・医療事故の裁判事例。事案の概要・請求金額・結論・争点・認容額の内訳など。

人間ドックの結果について説明義務違反があったとして,慰謝料の支払責任が認められたケース

 

東京地方裁判所 平成13年(ワ)第15816号 損害賠償請求事件
平成15年3月13日判決
【説明・問診義務,因果関係】

<事案の概要>

患者(大正13年生,男性)は,平成10年9月21日,被告病院において人間ドックによる健康診断(「本件人間ドック」)を受け,同年10月3日ころ,その結果が記載された「人間ドック健康診断報告書」が患者宛に送付された。患者は,上記報告書の記載に従って,被告病院において,同年10月7日に胸部CT検査等を受けた。同月12日,担当医師は,患者に対して,本件検査の結果(肺癌の疑いもあった。)について,胸部CT検査の検査記録に基づき説明を行った上で,きちんとした診断をするには癒着している部分の組織を気管支鏡で切除してくるか,あるいは開胸してその物を切除して所見をとらないと最終的なことは言えない旨説明し,併せて,気管支鏡検査がどのような検査であるかの説明及び相当な苦痛を伴う上に生命の危険もあるといった説明を加えた。患者は,気管支鏡検査を今すぐにやらなくてよいかという趣旨の質問をしたが,担当医師は,画像等から判断する限り,生命の危険を冒してまで,肺に関しては急いで特別な検査をする必要はないと思うので,経過を見ながら考えればよいと説明し,現時点で明らかな増悪がないので,経過を見て気管支鏡検査を実施することを患者に伝え,経過観察することにした。

患者は,平成11年1月5日,体調の不調を訴えて甲大学病院を受診し,同月6日に入院した。この時点で,多発性の肝細胞癌(HCC)又は多発性の肝転移性腫揚が指摘され,その後,肝細胞癌と診断され,同月14日に撮影された胸部CTによって,「右下葉に原発する肺癌およびその肺門リンパ節と縦隔リンパ節への広範な転移」と診断された。患者は,肺癌に対する治療を行う間もなく,同月17日に死亡した。

患者の家族が,被告病院を開設する法人に対し,損害賠償請求訴訟を提起した。

請求金額

合計2790万4367円

結  論

一部認容(認容額 合計440万円)

争  点

①被告病院は本件人間ドックに関する契約上の義務を果たしたか。
②患者の死亡と被告病院の行為との間に因果関係があるか。

認容額の内訳

①慰謝料

400万円

②弁護士費用

40万円

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呼吸器内科における過去の医療過誤・医療事故の裁判事例。事案の概要・請求金額・結論・争点・認容額の内訳など。

定期健康診断における異常陰影の見落としについて,1年目は見落としが否定され,2年目は,見落としはあるが別の理由で精密検査の指示がなされていたとして,担当医師に過失が認められなかったケース

 

大阪地方裁判所 平成15年(ワ)第3565号 損害賠償請求事件
平成18年3月17日判決 控訴後控訴棄却
【説明・問診義務,検査】

<事案の概要>

患者(男性)は,平成11年5月26日、勤務先で実施された定期健康診断で胸部X線間接撮影を受けたが、精密検査の指示を受けることはなかった。

患者は,平成12年5月11日,勤務先で実施された定期健康診断で健診担当医師Aの問診・聴診を受けた。医師Aは,特に異常所見は認められなと判断したが,患者が,血痰が出る旨を訴えたため,肺癌を含む精密検査を要すべき疾患が疑われると考え,患者に対し,総合病院を受診して胃カメラによる検査や気管支の検査等を受けるよう指示した。

その後,患者は,胸部X線間接撮影を受け,被告医療法人の理事長である担当医師Bが読影したが,右肺尖部の陰影は,治癒型不整形陰影であり,精査を要すべき異常陰影はないと判断されたため,何らの指示もなされなかった。

患者は,平成12年6月17日,甲病院(総合病院)を受診し種々の検査を受けた後,同年9月1日から12日まで検査目的で同病院に入院し,ステージⅡB(T3,NO,MO)の肺癌(腺癌)と診断されたが,同月19日の再入院後の検査で,病期はⅢB(T4,Nx,M0)と判断された。

患者は,同月29日以降,乙病院(総合病院)で治療を受け,入退院を繰り返していたが,平成14年8月5日同病院において肺癌(腺癌)のため死亡した。

患者の家族(妻及び子)が,健康診断を実施した医療機関を開設する医療法人に対し,損害賠償請求訴訟を提起した。

請求金額

合計3911万4404円

結  論

請求棄却

争  点

①平成11年の定期健康診断における異常陰影見落としの有無
②平成12年の定期健康診断における異常陰影見落としの有無及び担当医師の過失の有無無
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呼吸器内科における過去の医療過誤・医療事故の裁判事例。事案の概要・請求金額・結論・争点・認容額の内訳など。

脊髄小脳変性症(オリーブ橋小脳萎縮症)患者が東京都の在宅難病患者緊急一時入院制度を利用して被告病院に入院中,肺炎に罹患し,その後死亡したことについて,被告病院の医師に肺炎の罹患を防止すべき過失や痰の吸引を十分に行わなかった過失等がいずれも否定されたケース

 

東京地方裁判所 平成15年(ワ)第24123号 損害賠償請求事件
平成18年2月8日判決 確定
【入院管理,治療方法・時期】

 

<事案の概要>

患者(昭和11年生,女性)は,平成3年ころから脊髄小脳変性症(オリーブ橋小脳萎縮症:OPCA)に罹患し,患者の家族が24時間体制で看護していたが,東京都の在宅難病患者緊急一時入院制度を利用して患者を何度か被告病院(総合病院)内科に入院させていた。平成12年12月20日,患者の家族は上記制度を利用して患者を被告病院に入院させたが,その際,被告病院に対して,抗生剤を投与する際には事前に家族の同意を得てからにしてほしいと申し入れ,被告病院側との間で,人工呼吸器の設定や痰の吸引など患者の看護について取り決めをした。

患者は,入院翌日の21日,白色の痰が多量に気管から吸引され,22日には白色ないし黄色の粘稠痰が多量に吸引されるようになり,23日午前0時以降には痰の色が茶色になり,同日午前5時,患者が肺炎に罹患していることが確認された。担当医師は,患者の治療について家族と相談することとしたが,同日10時には患者の酸素飽和度が同日午前O時以降の94ないし95%から90%に下がり,肺に軽度の雑音があったため,気管吸引の頻度を30分ないし1時間に1回に増やした。14時,患者の呼吸が頻回となり,経皮的酸素飽和度が86ないし90%で推移したため,15時30分ころ患者の採血が試みられたものの,患者の血管状態から採血ができなかったが,経皮的酸素飽和度は90%台後半まで回復した。

同日16時20分,患者の呼吸が停止し,蘇生措置が実施されたが低酸素性脳症から植物状態となり,その約1年後,患者は肝膿瘍により死亡した。

患者の相続人は,患者が植物状態となって死亡したのは,病院の医師らが肺炎に罹患するのを防止する義務や,肺炎に対する適切な治療を怠った過失等によるものであるとして,被告病院を開設する法人に対し,損害賠償請求訴訟を提起した。

請求金額

合計7592万9049円

結  論

請求棄却

争  点

①患者に発症した肺炎について適切な対処を怠った過失の有無
②痰の吸引が不十分であった過失の有無
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呼吸器内科における過去の医療過誤・医療事故の裁判事例。事案の概要・請求金額・結論・争点・認容額の内訳など。

急性喉頭蓋炎により気道閉塞を来した患者に対して行われた気道確保措置の選択及び実施上の過失がいずれも認められなかったケース

 

大阪地方裁判所 平成16年(ワ)第936号 損害賠償請求事件
平成17年7月29日判決 控訴
【手技,治療方法,時期】

<事案の概要>

患者(当時64歳,男性)は平成12年8月8日午後11時過ぎころ,夕食時からの喉の痛みを訴え,被告病院(総合病院)を受診し,当直医であった被告医師(救急専門医)の診察を受けた。被告医師は,患者に対し,頸部及び胸部のレントゲン検査を実施し,喉頭蓋及び披裂部が大きく腫脹し,喉頭蓋に異物と思われる白い陰影が存在している所見を認めるとともに,上記喉頭蓋及び披裂部の腫脹により患者の気道は狭窄しているもののエアウェイは存在することを確認した。

被告医師が,異物を確認するための手段を他の当直医と検討していたところ,患者が突然うめき声を上げて立ち上がり,喉に手を当ててのけぞったため,被告医師は,喉頭蓋等の腫脹等により上気道が閉塞したものと判断し,気道確保の処置をとろうとしたが,患者が激しく暴れたため,体動を抑制するため,研修医,事務職員,警備員等を呼ぶよう指示するとともに,麻酔科医師の応援を要請した。

被告医師は,研修医等が患者を抑制しようとしている間に,緊急気道確保措置として18G針を輪状甲状間膜の位置から気管に2本刺入したが,患者の体動を十分抑えることができなかったことから,これ以上の穿刺は困難かつ危険と判断して中断し,刺入済みの針も抜去した。このころ,駆けつけた麻酔科医師は,経口による気管内挿管を試みたが,患者の休動が激しく,又,咽喉頭部の腫脹で奏功しなかった。

被告医師は,輪状甲状間膜をトラヘルパーで穿刺することにより気道を確保しようと考え,患者の体動が徐々に弱まっていたこともあって,研修医等による抑制下,患者の輪状甲状間膜にトラヘルパーで穿刺することに成功し,トラヘルパーに接続したジャクソンリーズのパッグを操作して患者に酸素を投与したが,酸素が十分投与できなかった。そこで,被告医師は,いったんトラヘルパーを抜去し,輪状甲状間膜より2,3㎝尾側に当たる第2及び第3気管軟骨間付近に改めてトラヘルパーを穿刺することとした。被告医師は、確実に気管に穿刺するため,気管を確認できる程度に皮膚及び気管周囲の皮下組織を切開・剥離した上で,トラヘルパーを穿刺したが,患者が心停止に至ったため,卜ラヘルパーによる換気を研修医らに任せ,心臓マッサージ及びボスミンの点滴投与を行った。その結果,患者の心拍はいったん再開し,被告医師は,心臓マッサージを中止し,ボスミンの点滴投与を継続しながら様子を観察したが,再び心停止したため,被告医師は,心臓マッサージ及び強心剤の投与を実施した。

麻酔科医師は,応援に駆けつけて以降,何度も経口気管内挿管を試みていたが,二度目の心停止後に試みた挿管が奏功し,大量の酸素が患者に投与されるに至った。患者の心拍は,このころ再び再開し,ICUに移されて喉頭蓋炎の原因検索が行われるたが,結局,その原因は解明せず,患者は,意識が回復しないまま,平成13年4月10日,被告病院から他の病院へ転院となり,平成14年3月25日,同病院で死去した。

患者の家族(妻及び子)が,被告病院を開設する法人及び被告医師に対し,損害賠償請求訴訟を提起した。

請求金額

合計6118万9708円

結  論

請求棄却

争  点

①2回目の穿刺による換気措置の適否
②患者の体動を抑制するためにとられた措置の適否
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呼吸器内科における過去の医療過誤・医療事故の裁判事例。事案の概要・請求金額・結論・争点・認容額の内訳など。

肺癌の早期発見・治療を行うべき義務及び陽性の喀痰細胞診検査結果を患者に告知すべき義務について,患者の直接死因は肺癌ではなく肺炎であるとしていずれの過失も否定されたケース

 

東京地方裁判所 平成16年(ワ)第120号 損害賠償請求事件(甲事件)平成16年(ワ)第122号 損害賠償請求事件(乙事件)
平成17年7月28日判決 確定
【説明・問診義務,検査,因果関係】

<事案の概要>

患者(昭和2年生,男性)は,平成元年から高血圧症及び心疾患の治療目的で甲事件被告の設置する病院(被告甲病院)を継続的に受診していた。平成13年1月ころ,患者は,血痰を訴えて同病院で喀痰細胞診検査を受けた後,呼吸困難等を訴えて乙事件被告の設置する病院(被告乙病院)に入院し,肺炎と診断されて同年2月下旬ころまで治療を受けた。患者は,同年3月上旬,退院後の経過観察で被告乙病院の外来を受診した際,血痰を訴えて喀痰細胞診検査を受けた。

患者は同時期に別の医療機関において同様の訴えをして喀痰細胞診検査を受け腺癌・クラスVと診断され,同医療機関から紹介された総合病院に入院し,肺癌の治療(主に対症療法)を受けたが,同年4月に呼吸不全により死亡した。

被告甲病院及び被告乙病院の担当医師らは,患者に対し,各喀痰細胞診検査の結果(いずれも腺癌・クラスV)を告知していなかった。

患者の遺族らは,患者は肺癌(肺胞上皮癌)により死亡したとして,被告甲病院及び被告乙病院の医師らが患者の肺癌の早期発見・治療を怠り,又,肺癌罹患を示す喀痰細胞診検査の結果を患者に直ちに告げなかったなどと主張して,被告甲病院及び被告乙病院をそれぞれ設置する被告らに対し,損害賠償請求訴訟を提起した。

請求金額

合計2905万円

結  論

請求棄却

争  点

①患者の直接死因は,肺炎か肺胞上皮癌か(患者は,肺胞上皮癌に罹患していたか否か。)。
②被告甲病院及び被告乙病院の医師らに,患者の肺癌を早期に発見・治療すべき義務違反ないし過失があったか否か。
③被告甲病院及び被告乙病院の医師らが,喀痰細胞診検査結果を患者に告知しなかったことにつき,義務違反ないし過失の有無
④甲,乙事件の被告らに,患者に喀痰細胞診検査の結果を速やかに告知できるよう院内の体制を整備しておくべき注意義務違反があったといえるか否か。
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呼吸器内科における過去の医療過誤・医療事故の裁判事例。事案の概要・請求金額・結論・争点・認容額の内訳など。

患者が拘置所収容中に発症した結核性頸部リンパ節炎が,拘置所内で感染した結核菌によるものとは認められず,薬剤性肝機能障害に陥ったことについて抗結核剤投与上の過失が否定されたケース

 

東京地方裁判所 平成13年(ワ)第14972号 損害賠償請求事件
平成17年7月25日判決 控訴
【治療方法・時期】

<事案の概要>

拘置所収容中に結核性頸部リンパ節炎を発症した患者が,①拘置所職員らが結核感染防止措置をとらなかったために感染した,②副作用の徴候を看過して漫然と抗結核剤の投与を続けたため薬剤性肝機能障害に陥ったなどと主張して,国に対し,損害賠償請求訴訟を提起した。

請求金額

合計2200万円

結  論

請求棄却

争  点

①患者は、拘置所内で結核菌に感染したか否か
②肝機能障害の徴候を見落とした過失の有無
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呼吸器内科における過去の医療過誤・医療事故の裁判事例。事案の概要・請求金額・結論・争点・認容額の内訳など。

患者に対する喘息治療について過失が否定され,ステロイド外用薬の処方中止後における病院の処置についても,患者の相続人の主張の前提となるステロイド離脱症状の発症が明らかでないが,仮に認められたとしても,それと患者の死亡との間の因果関係が認められないとされたケース

 

東京地方裁判所 平成15年(ワ)第15374号 損害賠償請求事件
平成17年4月15日判決 控訴
【治療方法・時期,因果関係】

<事案の概要>

患者(大正10年生,男性)は,昭和62年7月3日,咳及び軽度の呼吸困難を訴えて被告病院(大学病院)の内科を受診し,3年前から咳や痰があり,他の大学病院などで慢性気管支炎と言われ時々加療を受けていたが今後は被告病院での加療を希望すると述べた。患者は,同月11日にも被告病院を受診したが,その後平成2年8月9日まで受診しなかった。

患者は,近医で気管支喘息と慢性気管支炎の治療を受けていたが,近医での治療と並行して,同年8月から再び被告病院に通院し始め,平成2年は3回,平成3年は3回,平成4年は7回と断続的に被告病院に通院していた。

平成5年は,9月28日までに21回断続的に通院し,担当医師から,テオドール,ムコソルパン,ムコダイン,ベロテックエロゾル等の薬を処方されていた。

一方,患者は,平成元年5月11日,被告病院の皮膚科を受診し、以前より喘息に罹患しており,数年前顔に発疹を生じたが,ラジウム温泉に行って2日目に4月30日から発疹,掻痒があるなどと訴え、医師からステロイド外用薬などの処方を受けた。皮膚科の医師は,患者に対し,ステロイド外用薬を処方していたが,平成5年5月11日の診察以降,最終受診日である同年9月28日までステロイド外用薬の処方を中止した。

患者は,平成5年10月12日午前O時からネブライザーを行ったところ,終了後に頻呼吸となって,午前O時8分ころ意識を消失して転倒し,救急車で被告病院に搬送され集中治療室(ICU)へ入室した。 患者は,同年11月17日午前3時11分,被告病院において死亡した。

患者の相続人は,被告病院において適切な喘息管理を怠った過失,及び,最後にステロイド剤を投与された平成5年3月23日以降の体調の悪化に対し適切な処置をしなかった過失により患者を死に至らせたとして,被告病院に対し,損害賠償請求訴訟を提起した。

請求金額

合計6962万4696円

結  論

請求棄却

争  点

①患者の喘息管理を十分にしなかった過失の有無
②ステロイド剤の処方を中止した後の患者に対する処置の適否
③過失行為と結果との間の因果関係の有無
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呼吸器内科における過去の医療過誤・医療事故の裁判事例。事案の概要・請求金額・結論・争点・認容額の内訳など。

患者が後医で肺癌と診断されて死亡したことについて,担当医に肺癌発症の有無を鑑別するのに必要な検査を怠った過失はないとされたケース

 

東京地方裁判所 平成13年(ワ)第21823号 損害賠償請求事件
平成16年12月6日判決 控訴
【検査】

<事案の概要>

患者(昭和29年生,男性)は,平成11年4月下旬,呼吸困難(喘息様症状)を訴えて被告病院を受診し投薬を受けた。5月にも同様の症状が現れて甲病院を受診したが,症状が軽快したため通院を続けなかった。8月17日,患者は突然呼吸困難となり,被告病院の救急外来を受診し,翌18日も,呼吸困難を訴えて被告病院の救急外来を受診し,同日一般外来において担当医師から気管支喘息と診断された。

患者は,11月9日まで被告病院を受診し,特に症状を訴えることなく投薬治療を受けていたが,同月17日,乙病院において作成された「肺腫瘍疑い」及び「数日来血痰あり」との記載のある診療情報提供書及び同病院において撮影された胸部レントゲン写真及び胸部CTフィルムを持参して被告病院を受診した。

担当医師は,患者の肺腫瘍,血痰の原因を精査するため,同日以後,血液検査,腫瘍マーカーの測定,喀痰細胞診,抗生物質の投与,胸部レントゲン検査を実施し,12月2日以降は,気管支鏡検査,胸部CT検査等を実施したが,いずれの検査によっても肺癌の確定診断に至らなかったため,平成12年1月15日,経皮的針生検を実施した。一方,患者は,同年1月21日から後医を受診し,経皮的針生検を受けた結果肺癌(大細胞型)と診断された。患者は,2月9日から,後医において化学療法等の治療を受けたが奏功せず,4月16日,肺癌により死亡した。

患者の遺族が,被告病院を開設する法人及び担当医師に対し,患者の身体症状や実施された検査所見等から肺癌発症を疑い必要な検査を実施して早期に肺癌の確定診断と治療をすべきであったのにこれを怠ったと主張して,損害賠償請求訴訟を提起した。

請求金額

合計8074万6356円

結  論

請求棄却

争  点

①担当医師は,8月18日ころの時点で,胸部レントゲン検査を実施すべきであったか否か。
②担当医師は,11月17日ころの時点で,気管支鏡検査,経皮的針生検,穿刺吸引細胞診,CT検査等を実施すべきであったか否か。
③担当医師は,12月4日又は同月22日ころの時点で,肺癌の確定診断をするか,仮に確定診断できなかったとしても経皮的針生検を実施すべきであったか否か。
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呼吸器内科における過去の医療過誤・医療事故の裁判事例。事案の概要・請求金額・結論・争点・認容額の内訳など。

全身状態不良の患者が心肺停止状態になり死亡したことにつき,病院の管理・看護体制が不十分であったとの過失等が認められなかったケース

 

東京地方裁判所 平成13年(ワ)第25931号 損害賠償請求事件
平成16年3月31日判決
【入院管理,治療方法・時期】

<事案の概要>

患者(昭和42年生,女性)は,精神発達の遅延があり,従前から1か月に1回程度けいれん発作を起こしていた。患者は,平成10年9月20日午後3時ころから,全身けいれん発作を起こし,家族によって被告病院(総合病院)に搬送されたが,その時点で意識を喪失しており,被告病院の集中治療室へ緊急入院した。

患者は,同年10月5日から一般病棟に移ったが,口腔からの痰の吹き出しが非常に多く,被告病院の看護師らは,毎日,口腔及び気管カニューレから患者の痰吸引を行っていた。

患者の容態は緩やかに快方へと向かったが,同年12月15日午前5時,患者は心肺停止状態に陥り,駆けつけた当直看護師及び医師らによる蘇生措置の結果,心拍及び自発呼吸を再開したものの,意識が戻ることなく,平成11年3月24日,多臓器不全のため死亡した。

患者の家族らは,被告病院には患者の痰詰まり等に備え,患者を十分に監視をする義務を怠った過失があるなどと主張し,被告病院を開設する法人に対し,損害賠償請求訴訟を提起した。

請求金額

合計 1億1998万2819円

結  論

請求棄却

争  点

①カフ付きカニューレをカフなしカニューレに変更した措置が,患者の誤嚥や痰詰まりを予防するという観点からして適切であったか。
②被告病院が,患者の状態を頻繁に観察すべき義務を怠ったか。
③被告病院が,夜間の看護師の配置を増員すべき義務を怠ったか。
④被告病院が,サチュレーションモニター(酸素飽和度を計測するモニター)を装着して管理すべき義務を怠ったか。
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呼吸器内科における過去の医療過誤・医療事故の裁判事例。事案の概要・請求金額・結論・争点・認容額の内訳など。

肺炎の患者に対する呼吸管理について担当医師と看護師の不法行為責任が否定されたケース

 

東京地方裁判所 平成14年(ワ)第1771号 損害賠償請求事件
平成15年5月21日判決
【入院管理】

<事案の概要>

平成11年2月26日朝,患者(明治36年生,男性)は,下血による大量のタール便が出現して前ショック状態に陥り,意識レベルが低下し呼吸も困難になって,救急車で被告病院(総合病院)に搬送された。同年3月3日,検査により,患者にはうっ血性心不全と胸水が認められた。胸水は2月26日より増加していた。同日から,高カロリ一栄養の輸液を実施するために,身体が抑制された。

同年4月,患者は症状の悪化に伴って移動が困難になったため,同月6日から,レントゲン撮影を病室でポータブル撮影装置を使用して行われるようになった。患者には,浮腫,胸水増加,尿量減少,気管支れん縮などの症状が見られるようになり同月25日,心拍監視装置が装着された。同装置により,無線でつないだベッドサイドとナースステーションのモニターを通じて,看護師らが患者の心拍と呼吸を常時監視できる態勢になった。同月27日,ポータブル撮影装置により,患者の胸部レントゲン撮影が行われ,両側肺野に肺炎が認められた。同月23日に採取された喀痰の培養検査の結果,MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)が検出された。同月28日,患者は,ARDS(急性呼吸窮迫症候群),MRSA性の肺炎と診断された。DIC(播種性血管内凝固症候群)の傾向も見られた。患者に対して,呼吸を楽にするため,ベッドの頭側部分を起こして体位を坐位とする処置がとられた。患者の家族は相談の上,患者本人につらいことはしないで自然経過で診ていくのがよいと考え,人工呼吸器は装着しない(延命措置は行わない)との決断をした。

同月29日午前11時ころ,内科病棟担当医師は,患者の状態が徐々に悪くなっていると判断し,看護師に対し,投与酸素の濃度を上げて経過観察をするよう指示した。午後8時20分ころ,家族からナースコールがあったので,看護師が病室へ行ったところ,患者の意識レベルが痛覚刺激にも反応しない意識不明の状態まで低下し,顔色が悪く,指先などの末梢も冷たくなっていたため,患者が循環不全に陥っているものと判断し,患者の体位を坐位から仰臥位頚部後屈下肢挙上へと変換して,気道を確保しながら血圧を回復することを試みた。看護師は,体位変換を行ったことを担当医師に報告し,担当医師から経過観察の指示を受けた。

午後8時30分には患者の収縮期血圧は70まで下がり,午後9時45分には60/36(mmHg)へ低下し,心的数も毎分80台となり,チアノーゼが生じ,午後10時,心拍数は毎分30ないし40台に低下し,無呼吸となり,午後10時40分に呼吸停止となり,午後10時48分,死亡が確認された。

患者の子2名は,被告病院を開設している地方公共団体に対し,損害賠償請求訴訟を提起した。

請求金額

合計750万円

結  論

請求棄却

争  点

担当医師と担当看護師の呼吸管理に過失があったか否か。
医療過誤 医療事故 弁護士68.png

呼吸器内科における過去の医療過誤・医療事故の裁判事例。事案の概要・請求金額・結論・争点・認容額の内訳など。

誤嚥性肺炎の既往のある入院患者に対し,栄養補給を点滴措置によって行ったことにつき,経口摂取の食物を与えなかった過失,バランスのとれた栄養を供給しなかった過失等が認められなかったケース

 

大阪地方裁判所 平成13年(ワ)第6163号 損害賠償請求事件
平成13年12月27日判決
【入院管理,治療方法・時期】

<事案の概要>

患者(大正4年生,女性)は,平成11年5月6日,熱発・喘息を生じて救急車で被告病院(総合病院)に搬入され入院した。患者は,入院時の問診で気管支喘息気管支肺炎,高血圧,陳旧性脳梗塞と診断され,誤嚥性肺炎の既往があることが確認されたため,担当医師(内科)は,絶食・飲水のみ可として輸液を指示した。

同月7日より,患者に経口や経鼻的胃チューブでハーモニックを摂取させたが,同月18日,耳鼻咽喉科医師により,機能性の嚥下障害と診断され,その後,固形食を摂取させたが誤嚥したので,同月24日より,中心静脈栄養チューブによる栄養管理が開始された。その後,患者は経鼻的胃チューブでも誤嚥しやすかったことから,同年6月23日,胃ろうが造設され,同月25日から胃ろうチューブにより経腸ハーモニック(後にポタコールRも併用)が投与された。

患者は,同月29日,蛋白が上昇し,播種性血管内凝固症候群(DIC)準備状態となり,同年7月16日,頭部CTにて脳梗塞の再発確認,同月31日,全身に浮腫,胸水貯留,心拡大確認,同年8月29日,自発呼吸停止,心停止となり,心肺蘇生術により一命を取り留めたものの,以後は人工呼吸をすることになり,平成12年8月1日,脳梗塞,右心不全による腎不全により死亡した。

患者の家族らが,被告病院を開設する法人に対し,損害賠償請求訴訟を提起した。

請求金額

合計3966万円

結  論

請求棄却

争  点

①患者が入院してから植物状態に陥るまで,経口摂取食物を与えるべきであったか否か。
②患者の栄養状態,体調の正確な把握及び輸液の適正さを判断するために,蛋白質の状態,肝臓機能等の諸検査を行い,バランスのとれた栄養を供給すべきであったにもかかわらず怠ったのか否か。
③患者が入院してから植物状態に陥るまで,患者に十分な栄養を与えるべきであったにもかかわらず,輸液のカロリー量を減らして患者の栄養不足,蛋白質不足を加速させたのか否か。

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