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脳塞栓症再発の見落としにより死亡した事件

患者は脳梗塞で入院中脳梗塞を再発しましたが,主治医の研修医が見落とし処置の遅れから脳ヘルニアにより死亡した事件です。

患者は60代男性,脳梗塞・心房細動・高脂血症の既往があり相手方病院に定期通院しワーファリンによる抗凝固療法を受けていましたが,自宅で脳梗塞を起こし相手方病院へ救急搬送されました。患者は,受診時,右共同偏視,左片麻痺があり,MRI検査で右中大脳動脈閉塞による右大脳半球の広範囲な梗塞が認められ,心電図上心房細胞が見られたことから心原性脳塞栓症の診断で神経内科へ入院となりました。入院中ワーファリンは投与されず,患者は順調に回復していましたが入院1か月ほどしたある日,看護師が来室すると意識不明の状態に陥っており右麻痺や呼吸状態の悪化が出現していました。主治医の研修医が指導医に相談したところ,指導医は直接患者を診察することなく主治医の話のみから症候性てんかんの疑いと判断し,主治医が経過観察にしていたところ患者は24時間後病室で心肺停止状態になっているところを看護師に発見され間もなく死亡しました。

死亡原因を調べるため頭部CT検査を実施したところ,左大脳半球に広範囲な梗塞巣が認められ,正中偏位著明で左側脳室・脳溝が消失した脳ヘルニア所見が認められ脳ヘルニアのため呼吸停止に至ったことが判明しました。

脳ヘルニアで死亡した原因

脳は,脳梗塞などの病変により脳浮腫(むくみ)を生じますが,頭蓋骨で囲まれスペースがないため脳腫脹が進んで頭蓋内圧が亢進すると脳組織が隙間に向かって押し出されます。組織が押し出された状態をヘルニアといい,脳組織が呼吸中枢を圧迫すると死に至るため見落としてはならない重要な病態とされます。

第三者である脳外科医に本件の過失調査をお願いしたところ,患者の脳ヘルニアは,左内頸動脈へ心原性脳塞栓症を生じたが,医師が症候性てんかんと誤診し治療・患者管理を誤ったため急速に脳腫脹を生じたことが原因とのことでした。通常,脳塞栓症発症後の脳腫脹は3〜5日後にピークとなりますが,本件では発症翌日に脳ヘルニアに至りました。通常より悪化が早かったのは,脳浮腫対策や呼吸管理が行われなかったことが原因です。主治医は,脱水状態と考えて点滴量を多めにしたのですが,脳浮腫対策を考えると逆に点滴を少量にし,グリセロールなど頭蓋内圧を下げる点滴を行う必要がありました。また患者が呼吸不全に陥っていたのに酸素が投与されず,舌根沈下に対する気道確保も行われませんでした。そのため換気量不足から血中二酸化炭素が増え脳腫脹を加速させたのでした。

■どのような過失があるか(1)主治医の検査・診断義務違反

主治医は,患者を入院させた後,抗凝固療法(ワーファリン投与)を実施しなかったのですから患者の症状から当然脳梗塞再発の可能性を考え,CT検査で脳出血でないことを確認したら症候性てんかんと脳梗塞再発を鑑別するためMRIの拡散強調画像(DWI)撮影を実施して脳梗塞の診断をなし,脳浮腫対策・呼吸管理等の治療を直ちに開始すべきでした。

ところが主治医は,患者の脳梗塞再発の症状を見落とし,鑑別に必要な検査を実施せず,症候性てんかんの疑いのまま経過観察とし患者を死に至らしめてしまいました。

■どのような過失があるか(2)研修医の指導医の監督責任

医学部卒業後2年間は,研修医は臨床研修プログラムに沿って各科をローテ−ションします。本件の主治医は,卒業後2年目で,神経内科に配置されたばかりの知識も経験も少ない研修医でしたが,診療録によると回診や病状説明に指導医が立ち合うこともなく患者の診療は研修医にほぼ丸投げの状況でした。患者は重篤な状態にあり指導医は主治医と一緒に患者の診察に当たるべきでしたが指導医は患者が脳梗塞を再発し急変した後も直接診察することはありませんでした。このような場合,研修医一人を責めるのは正しくなく,指導医・科長・院長が臨床責任を負うべきと考えます。

どのような過失があるか(3)看護義務違反

患者は,看護師に心肺停止の状態で発見されました。患者はモニター(心拍監視装置)を装着中でしたので徐脈になった時点でアラームが鳴ったはずですが,看護師がアラームを切っていたかアラームを無視したかのいずれかにより心肺停止に気付かず,心肺蘇生措置の遅れが原因で心肺再開を得られませんでした。           

仮に看護師の過失がなく,直ちに蘇生できたとしてもこの時点では数日程度の延命しか期待できませんでした。しかし患者家族にとって,たとえ数日であっても延命できるか否かは大問題です。            

医療従事者は,どうせ助からないからと放置してはならず,もし自分の家族だったらという気持ちを忘れないでいて欲しいものです。

どのような過失があるか(4)説明義務違反

本件では,出血性梗塞,脳塞栓症再発の危険,それらに伴って死亡する危険性があることを患者家族に十分説明する必要がありましたが診療録には一切記載が無く説明が不十分であったと思われます。また知識も経験も浅い研修医では患者家族が納得する説明をするのは難しく,指導医が立ち合って説明を補足する必要がありましたが指導医は立ち合いませんでした。しかも,脳梗塞を再発して急変した後も,患者が死亡した後も家族に十分な説明がなされず,診療録にも記載がありませんでした。

このような医師らの対応が,患者の家族に不信感を与え,紛争に繋がるきっかけとなった可能性は否めません。

交渉経緯

この事件は当初別の弁護士が示談交渉を行っていましたが上手くいかず患者家族の依頼を受け途中から受任しました。患者が亡くなった後,主治医が患者家族に対し,「ワーファリン投与を忘れていた。」と説明したため,家族も前任の弁護士も入院中ワーファリンが投与されず脳塞栓症を再発させたのが過失だとして病院側と争っていました。

しかし,ワーファリンを投与しなかったことは過失ではなく,争点を間違えたため交渉が上手く進まなかったのでした。本件では,出血性梗塞を生じるリスクがあり,また入院中肝機能障害もみられたことからワーファリンを中止したことは正しい判断でした。ただし,主治医である研修医は,そのように判断してワーファリンを投与しなかったのではなく,全く念頭になかっただけだったようです。もし出血のリスクや肝機能障害が理由でワーファリンを投与しないのであれば,医師は患者家族に対し,ワーファリンを投与しない理由,及び,投与しないことにより脳梗塞を再発する危険性を説明すべきでしたが説明はなされませんでした。

病院側は,当初,重症の脳梗塞に致死的脳梗塞が続発しており直ちに抗脳浮腫対策を実施しても救命は不可能だったとして一切の過失を否定していました。しかし,第三者である脳外科医の医師意見書を提出の上,上記病院側の過失を指摘したところ,患者家族への説明が不十分であったと説明義務違反の点を認め慰謝料500万円で示談に至りました。

医療事故を巡り病院側と多くの示談交渉を経験して思うのは,紛争を裁判にせず早期円満に解決するうえで,同業者からの指摘が最も重いということです。第三者である専門医が診療記録・画像記録等に基づき丁寧に分析調査して作成した医師意見書は説得力があり,病院側が調査結果を真摯に受けとめ示談がまとまることが多いです。

医療事故のケースで患者側に協力してくれる専門医を見つけるのは容易なことではありません。患者家族に協力すると医師同士で非難される場合もあるでしょう。しかし,患者・病院どちらの味方という発想ではなく,医療紛争を早期円満に解決できるのは医師しかいないことを医師にご理解頂き積極的に協力くださることを願ってやみません。

同業者から見て明らかな過失を過失であると明確に指摘することが事故の再発防止に繋がり,より良い医療の維持発展に役立つと考えます。

脳卒中,脳梗塞と脳塞栓の違い

脳梗塞・脳出血・くも膜下出血など脳血管の異常で起きる病気を脳卒中といいます。脳梗塞には,脳血栓と脳塞栓があり,脳血栓は脳血管に生じた血栓により脳血流障害が生じるもの,脳塞栓には,心臓にできた血栓が脳血管を閉塞する心原性脳塞栓症と内頸動脈などの血栓が脳血管を閉塞する動脈原性脳塞栓症があります。

心房細動,弁膜症や心筋梗塞など心臓に病気を持っている人は心臓に血栓ができやすいことが知られており血栓が心臓から出て脳血管を詰まらせると脳塞栓起こします。そのため,予め血液をさらさらにするワーファリンなどの薬を服用し血栓の発生を防ぎます。

本件の患者も心房細動の持病がありました。

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