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注腸造影検査中の腸穿孔事件

患者は50代男性,勤務先の定期健康診断で便潜血反応が陽性となり,大腸癌の精密検査を受ける目的で相手方病院を受診し,注腸造影検査を受けることになりました。注腸造影検査は,肛門から細い管を入れ造影剤(バリウム)と空気を注入し大腸の輪郭をレントゲンで撮影し腸壁の変形など異常がないか調べる検査です。診療放射線技師が肛門から管を入れる際,大腸を穿孔し大腸に入れるはずのバリウムを骨盤内へ注入してしまいましたが,技師も検査後レントゲン写真を見た医師も大腸を穿孔してバリウムを骨盤内に注入したことに気付かず患者をそのまま帰宅させました。患者は,技師が肛門から管を挿入したときから激痛が続いていましたが,注腸造影検査を受けたことがなかったのでこんなものかと我慢して帰宅したのですが,痛みは増すばかりで眠れない夜を過ごしたそうです。翌日救急搬送された患者は,バリウムによる急性汎発性腹膜炎を起こしており,直腸切除及び人工肛門造設の緊急手術となりました。

穿孔性腹膜炎の内,注腸造影検査により生じるバリウム腹膜炎は最も重篤で腹腔内へ漏出したバリウムは腹膜全体に付着し細菌感染を助長するため予後が不良で,死亡率22.0%と報告されており(1)~(3),患者が手遅れにならずにすんだのは不幸中の幸でした。九死に一生を得た患者でしたが,もし,患者が検査の後,痛みを我慢しないで医師に痛みを訴え原因解明を強く求め,時間を置かずに腸穿孔によるバリウムの骨盤内注入が発見されていれば,症状も後遺障害もより軽かった可能性があります。本件は,患者が,我慢強かったばかりに損をしてしまいました。こと病気に関して患者は,多少大げさなくらいが丁度良く,痛みや異常は患者が医師にはっきり伝えないと見落とされ手遅れになる危険があることに注意が必要です。

(1)清水輝久,下山孝俊,中越享他:バリウム腹膜炎症例の検討,腹部救急診療の進歩8:419-422,1988(バリウム注腸造影検査により生じたバリウム腹膜炎9例の報告)
(2)池沢輝男,長谷川洋,前田正司他:Barium Peritonitisの2治験例,日臨外会誌44:1477-1482,1983(注腸造影の際,直腸憩室を穿孔しバリウム腹膜炎を生じた症例,及び,胃透視の際,十二指腸球部前壁を穿孔しバリウム腹膜炎を生じた症例)
(3)安藤勤,大塚敏広,原田雅光他:転移性肝癌と鑑別が困難であった炎症性肝肉芽腫の1例,日臨外会誌62:1481-1486,2001(バリウム注腸造影検査で腸穿孔しバリウム腹膜炎を発症,バリウムが肝内へ侵入し炎症性肝肉芽腫を生じた症例)

注腸造影検査で穿孔を生じる原因

注腸造影検査で腸管穿孔を生じる原因は,大腸穿孔では,注腸造影時のカテーテルの先端による腸管壁の直接損傷や,バリウムや空気による腸管内圧の上昇によるものが殆どとされます。胃透視後の大腸穿孔では,大腸癌・大腸憩室等の基礎疾患が存在し腸管壁が脆弱な場合や,硬いバリウム糞便塊の停滞・通過に腸管内圧上昇が加わった場合に起こることが多いとされます(1)。 

実は珍しくない?消化管穿孔事故

医学文献を調べると検査の際の消化管穿孔は稀だと書かれていますが,医原性疾患(診療行為が原因で発生した病気)なので報告されることが少ないだけで,実際は稀と言うほど珍しくはないようです。過去の裁判例でも大腸内視鏡検査で医師が大腸を穿孔したケース (1),看護師が高圧浣腸した際大腸を穿孔したケース(2) ,腸内に滞留したバリウムでS状結腸に穿孔を生じたケース(3)等があり,いずれも患者が勝訴しています。
(1)神戸地裁判決平成16年10月14日: 国際線の機長(50代男性)が定期検診の大腸内視鏡検査の際,医師の過誤により大腸に穿孔を生じ,治癒して復職しましたが航空会社の内部規制により国際線乗務が禁止され減収を来たしたケースで,高額の逸失利益認められ損害賠償金4989万9528円が認容されました。
(2)高松高裁判決平成19年1月18日:患者は60代女性,看護師が大腸検査の前処置として高圧浣腸をした際,手技上のミスで大腸に穿孔を生じ人工肛門造設を余儀なくされたケースで,損害賠償金2928万9511円が認められました。
(3)大阪高裁判決平成20年1月31日:患者は60代男性,胃透視検査後,腸内にバリウム便が滞留しS状結腸憩室壁が穿孔したケースで,損害賠償金404万3421円が認められました。このケースでは後遺障害が否定され,また憩室はもともと穿孔の危険性が高いとして患者の身体的素因が考慮され損害額全体から30%減額された結果,賠償額が低くなっています。
【註】憩室:腸管等の臓器の壁がポケット状に落ち込んで生じた部分をいい,その発症頻度は加齢と共に上昇し,高齢者では左右大腸に発生するなど多発例が増加する。多発するものを憩室症というが,憩室症が特別な症状を示さず,特に治療の対象とならない場合も多い(判決文より引用)。

事件の特殊性と問題点

患者は,大腸癌の精密検査を受ける目的で注腸造影検査を受けたのに事故に遭ったため結局検査を受けることができませんでした。穿孔した腸管から骨盤内に注入されたバリウムは大量の温生理食塩水による腹腔内洗浄を行いましたが,完全には除去できず一生残るためレントゲン検査もCT検査もできなくなりました。バリウムの影響で検査を実施しても全体が白く写って骨盤内の状態を観察することができないからです。また,異物であるバリウムは強い炎症性変化を引き起こすため骨盤内炎症が治ることなくその影響で腸管が狭窄し内視鏡検査もできなくなりました。癌の精密検査目的で受けた検査でしたが,検査中の事故のせいで,今後癌を始め疾病の早期発見ができなくなってしまったのです。

更に,将来癌になっても残留バリウムによる骨盤内炎症の存在で創傷が治らないため手術は困難であり,患者は将来の不測の事態への不安を感じながら生きていかなければならなくなりました。

不測の事態を金銭的に評価することができないため,示談交渉では,病院に対し不測の事態が起きた場合の治療保証条項を和解書に入れるよう要請しましたが病院が応じず,やむなく示談成立後不測の事態が生じたときは別途協議する旨の条項を和解書に入れるよう要請しましたが,それにも病院が応じなかったため,現時点で算定可能な賠償額で示談せざるを得ませんでした。

このような示談をしても,示談当時予想できなかった再手術や後遺症が後日発生した場合には,被害者はその損害賠償を請求できるとする判例がありますが(最高裁昭和43年3月15日判決),不測の事態が起きたとき患者が裁判を起こさなければならないのは大変な負担ですので,事故を起こした病院の誠実な対応が望まれます。

 

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