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■最高裁判所は,集団検診で肺がんを見落した医療機関の責任を否定!

保険会社の女子社員が毎年受けていた社内定期健康診断の胸部レントゲン検査で異常陰影を見落とされ肺がんにより死亡し遺族が医療機関等に損害賠償を求めた事件で最高裁判所は医療機関等の責任を否定しました(最高裁判所平成15年7月13日判決)。

■「どうせ助からない」ですむ問題か!?

第1審の東京地方裁判所は,昭和60年9月と昭和61年9月に実施した胸部レントゲン検査で異常なしと診断したことに過失はない,昭和62年6月の胸部レントゲン写真は異常陰影が認められるから精密検査を指示しなかった医師に過失があるが,適切な処置をとっても昭和62年11月の肺がんによる死亡は避けられず過失と延命利益喪失との間に因果関係は認められないし不誠実な医療自体を理由に慰謝料を請求することはできないとして遺族の請求を全面的に棄却しました(東京地方裁判所平成7年11月30日判決)。

医師の過失を認めながら,癌でどうせ助からないから医療機関は賠償しなくてよいという裁判所の判断は,一般の人には到底納得できるものではないと思います。遺族は控訴しました。

■集団検診は数が多いから見落としてもOK!?

第2審の東京高等裁判所も第1審の判断を肯定し控訴を棄却しました(東京高等裁判所平成10年2月26日判決)。裁判所は,「集団検診の限界」を理由に医師がレントゲン写真を異常なしと診断したことに過失はないと判断しました。即ち,「定期健康診断は,一定の病気の発見を目的とする検診や何らかの疾患があると推認される患者について具体的な疾病を発見するために行われる精密検査とは異なり,企業等に所属する多数の者を対象にして異常の有無を確認するために実施されるものであり,したがって,そこにおいて撮影された大量のレントゲン写真を短時間に読影するものであることを考慮すれば,その中から異常の有無を識別するために医師に課せられる注意義務の程度にはおのずと限界がある」,としたのです。

集団検診だから医師が異常を見落としても許されるのであれば,集団検診を受ける意味がないのではないでしょうか。むしろ毎年集団検診を受け「異常なし」と診断されれば患者としてはそのまま信じて精密検査を受ける機会を失う可能性がありますから,集団検診を受けない方が良かったという結果になりかねません。

ところが第3審の最高裁判所は,東京高等裁判所の判断を肯定し遺族の上告を棄却しました。

■集団検診で医師の過失を判断する基準とは?

集団検診において撮影されたレントゲンフィルムの読影を担当する医師の注意義務に関する裁判例に,仙台地方裁判所平成8年12月16日判決があります。

患者は,平成2年8月に内科医院で末期の肺がんが発見され翌平成3年2月に死亡したのですが,市の実施する定期健康診断で昭和63年,平成元年に受けた胸部レントゲン検査で既に腫瘍の可能性のある陰影が写っており健康診断で異常が指摘されなかったばかりに肺がんの発見が遅れてしまいました。

仙台地方裁判所は,昭和63年,平成元年のレントゲン写真に異常陰影が存在し精密検査をすれば肺がんを発見できたと認めながら,次のように述べて医師の過失を否定しました。即ち,集団検診におけるレントゲン写真読影においては,問診ができず,年齢,病歴等の受診者に関する参考資料もない状態で,レントゲン写真のみで正常か異常かを判断しなければならず,患者の過去のレントゲン写真と比較することは集団検診の時間的経済的制約から望めず,比較的短時間に多数のレントゲンフィルムを流れ作業的に読影しなければならないという集団検診の制約と限界があるので,集団検診でレントゲン写真を読影する医師の注意義務は,一定の疾患があると疑われる患者について,具体的な疾患を発見するために行われる精密検査の際に医師に要求される注意義務とは自ずから異なるというべきであり,レントゲンフィルムの陰影を異常と認めないことに医学的な根拠がなく,これを異常と認めるべきことにつき読影する医師によって判断に差異が生ずる余地がないものは,異常陰影として比較読影に回し,再読影して再検査に付すかどうかを検討すべき注意義務があるけれどもそうでなければ過失はないというものです。

■集団検診の異常なしの結果は信じるな!!

結局,集団検診では医師の過失が認められ難いと言えます。

この判決には,集団検診は,「集団的な健康水準の維持からは有効な方法であるけれども,個別的な肺がんの発見方法としては完全とはいえないものであり,受診者も肺がん検診はこのようなものであることを予期すべきものである」,とも述べられています。集団検診では限界があるのだから見落としがあっても「異常なし」の診断を信じた方が悪いというのですから,集団検診の異常なしの結果は信じないことが重要ですね。

医師が,勤務先病院の定期健康診断で肺がんを見落とされ死亡!

医師が,自分の勤務する病院の定期健康診断で胸部レントゲン写真の異常陰影を2年間見落とされ肺がんで死亡した事件で裁判所は読影した呼吸器科医の過失を否定しました(名古屋地方裁判所平成21年1月30日判決)。

この裁判は,短時間で多数のレントゲンフィルムを読影する集団検診の特殊性を重視し,通常集団検診において行われる読影条件の下において,これを行う一般臨床医の水準をもって読影した場合に,異常ありと指摘すべきかどうかの判断が異なり得るかをもって判断するとして,専門医ではなく一般臨床医のレベルを基準に一般臨床医に読影させたら評価が分かれたので専門医である呼吸器科医が異常なしと判断しても過失はないとしています。

患者としては呼吸器科医から胸部レントゲン検査で異常なしと診断されれば専門医の判断ですから結果を信じて疑わず,他所の病院で精密検査を受ける機会を奪われてしまいますから,専門医の診断ミスも集団検診ならハードルが下がって許されるなんてどうも納得のいかない判決です。

集団検診では見落としがあっても医療機関の責任を問うのは難しいので,胸部レントゲン検査の「異常なしの結果は疑え!」が鉄則ですね。名古屋地方裁判所は,「個別に人間ドックを受検する等他の方法により健康を管理するという選択肢も存在し得る」じゃないかとも述べていて,健康管理するなら自分で人間ドック等を受けるべきで集団検診しか受けない者は見落としがあっても自己責任だと言わんばかりの患者に厳しい見方をしています。 

勝訴しても浮かばれない?自己防衛が最善の策!!

集団検診の胸部レントゲン検査で異常陰影が見落され肺がんにより死亡したケースで患者側が勝訴した裁判もあります(富山地方裁判所平成6年6月1日判決)。読影をした医師が異常陰影に気付きながら異常なしと判断し精密検査の受診勧告をしなかったケースです。富山地方裁判所は,医師の過失,及び,より早期に治療を開始すればより延命の可能性が高まることは認めましたが,定期健康診断時,肺がんがリンパ節に転移していなかったと判断することは困難であるとして過失と死亡との因果関係を否定し,慰謝料僅か400万円しか認めませんでした。例え勝訴しても遺族の心情として納得のゆく金額ではないと思いますが,癌の見落しのケースでは一般に癌の進展速度に個人差があり,転移の有無は立証困難なので因果関係が否定され賠償額は低額となりがちです。

結局,自分で人間ドックや精密検査を積極的に受けて癌を早期発見する以外方法はないのかもしれません。

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