■どこまで肛門?直腸と肛門をむすぶ管を「肛門管」と呼びます。肛門の構造は,医学的にはなかなか複雑です。外から見えるいわゆる肛門が肛門の外口で,外口と肛門周囲の皮膚との境を肛門縁(anal verge)と呼びます。肛門縁から1.5cmから2cmほど奥に,「歯状線」と呼ばれる部位があり,直腸診で指診を更に約2cm進めると肛門管周囲にある括約筋できつく締まった狭い部分から急に抵抗のない広がった直腸膨大部という場所に達します。肛門縁から歯状線までを解剖学的肛門管と呼び,肛門縁から括約筋で締まった狭い管状の部分を外科学的肛門管と呼びます。ですから,解剖学的肛門管で直腸に当たる部分は,外科学的肛門管では,肛門管ということになります。病理組織学的には,肛門縁から歯状線までは重層扁平上皮という平らな形の細胞で構成され,直腸は円柱上皮からなり,その間に移行上皮という立方型の細胞があります。肛門を外科学的肛門管と捉えると構成される細胞は,重層扁平上皮,移行上皮,円柱上皮が含まれますが,解剖学的肛門管と捉えれば,重層扁平上皮のみです。「肛門」の病理診断を依頼されたとき,肛門イコール重層扁平上皮だと思って顕微鏡をのぞいて直腸の粘液を分泌する細胞があると,誤って癌と誤診してしまう場合があります。もちろん,病理組織検査依頼書に,直腸下部から肛門管にかけての組織由来と正確に書かれているか,組織を採取した部位のイラストが描かれていれば間違えられることはないでしょう。