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産婦人科における過去の医療過誤・医療事故の裁判事例。事案の概要・請求金額・結論・争点・認容額の内訳など。

常位胎盤早期剥離の診断の遅れについて当直医の不法行為責任が肯定されたケース

 

東京地方裁判所 平成11年(ワ)第18965号 損害賠償請求事件
平成14年5月20日判決
【治療方法,時期,因果関係,損害論】

<事案の概要>

患者は,平成10年5月26日(妊娠35週5日)午前4時ころ,下腹部の胎盤のある辺りに痛みを感じ,痛みが軽減しないので心配になり,午前6時ころ,被告病院(大学病院)産婦人科に1回目の電話をかけた。電話に出た当直医(産婦人科)は,患者の訴えを聞いて,ウテメリンを服用して安静にするように指示した。患者は,ウテメリンを服用したが,下腹部痛が治まらず,気分が悪くなって嘔吐したため,夫の運転する自動車で,午前7時ころ,被告病院を訪れた。

当直医は,午前7時10分ころ,助産師とともに一般的診察を開始した。腹部は非常に硬い状態であったが,当直医は,常位胎盤早期剥離の症例を扱った経験がなく,切迫早産の子宮収縮による硬さであると考えた。患者には性器出血,破水は見られず,子宮口の開大もなかった。当直医は,午前7時20分ころ,助産師に対し分娩監視装置の装着を指示したが,トランスデューサで胎児の心臓の位置を捜し当てることができなかった。当直医が交替して試みたが,心臓の位置を捜し当てることはできなかった。そこで,超音波検査装置による測定に切り替え,午前7時30分ころ,胎児心拍数が毎分80(胎児心拍数の正常値は毎分120から160であり,120を下回ると徐脈,100を下回ると高度徐脈と判定される。)であることを確認した。

午前7時35分ころ,当直医は,医局の助手から,電話で,高度徐脈が一過性のものか継続するものかに注意を払い,徐脈が続くときには母体に酸素を供給するよう指示を受けた。午前7時40分ころになっても,徐脈が回復せず,当直医は,胎児仮死を疑い,助産師に対しウテメリンの点滴と酸素の投与を指示し,午前7時45分ころ,ウテメリンの点滴が開始された。当直医は,超音波検査で胎盤の肥厚を認めず,性器出血もないことなどから,徐脈の原因を,常位胎盤早期剥離よりも,切迫早産の子宮収縮が過強的に起こっているためと考え,胎児の体位変換により徐脈が回復する可能性を考え,触診などをしながら経過を観察した。

午前7時50分ころ,助手が被告病院に到着し,患者の腹部を触診して,常位胎盤早期剥離を疑った。徐脈は毎分60から70に悪化し,ウテメリンの点滴量を増やしても回復しなかったため,助手は,午前8時ころ,常位胎盤早期剥離を強く疑い,点滴を中止して緊急帝王切開術の施行を決断した。

午前8時42分,帝王切開術が開始され,午前8時45分,女児が重症新生児仮死の心停止状態で出生した。体重は1934gで,ぐったりして啼泣もなく,出生1分後のアプガースコアは0で,著しい代謝性アシドーシスになっていた。

出生から3年後,患者(女児)は,重症新生児仮死後の低酸素性虚血性脳症,脳性麻痺(四肢),てんかん(ウエスト症候群),精神発達遅滞,皮質盲(後頭葉にある皮質視中枢が障害され視覚を喪失している状態)と診断され,摂食,排泄,体位交換など全面的に介助を要する状態であった。

出生した患者(女児)とその両親は被告病院を開設している国に対し,損害賠償請求訴訟を提起した。

請求金額

合計1億5027万1080円

結  論

一部認容(認容額 合計660万円)

争  点

①患者の来院後,速やかに分娩監視装置等により胎児心拍数の計測を行わなかったことに過失があるか。
②胎児の徐脈を確認した時点で,直ちに帝王切開術を決断しなかったことに過失があるか。
③当直医の過失と患者(女児)の後遺障害との間の因果関係。
④損害額

認容額の内訳

①慰謝料

600万円

②弁護士費用

60万円

判  断

①,②過失肯定、③因果関係否定。

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