過去の医療事故・医療過誤(医療ミス)の裁判事例 耳鼻咽喉科 大阪地判平成16年1月21日判決

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耳鼻咽喉科における過去の医療過誤・医療事故の裁判事例。事案の概要・請求金額・結論・争点・認容額の内訳など。

 

急性喉頭蓋炎の患者に対する経過観察を怠った過失,及び,気道確保の手技を誤った過失がいずれも認められたケース

 

大阪地方裁判所 平成13年(ワ)第6038号 損害賠償請求事件
平成16年1月21日判決
【手技,入院管理,治療方法,時期,術後管理,転医義務,因果関係】

<事案の概要>

患者(昭和42年生,男性)は,平成11年8月13日午後6時30分ころ,身体の震え,咽頭部痛等を訴えて,被告甲病院(胃腸肛門科病院)を受診した。同病院の医師は,感冒,咽頭炎,扁桃炎と診断し,患者に抗生物質等を投与した。患者は,いったん帰宅したが,呼吸困難を覚えて,同日午後9時20分ころ,再度被告甲病院を受診した。当直医であったA医師(消化器外科)が診察したところ,38度の発熱と中等度の呼吸困難があり,扁桃に軽度の腫脹を認めたが,パイタルサイン,肺の聴診音,呼吸音が正常だったため,両側の扁桃腺腫大による呼吸困難と診断し,ステロイド剤を点滴した上,経過観察をするために患者を入院させた。

 

患者には,入院直後から,ヒューヒューという狭窄様の呼吸音を伴う強い呼吸困難と咽頭痛が認められ,翌14日午前0時ころ,午前1時45分ころ,午前2時30分ころ,午前6時ころ,ナースコールで看護師を呼んで呼吸困難を訴えた。看護師がA医師に患者の状況を報告したが,A医師は,診察せず,看護師にステロイド剤やボルタレン坐薬の投与を指示した。患者は,すぐに呼吸困難の状態に戻り,息苦しさの余り,飛び起きたりしていた。

 

午前7時,呼吸状態に変化はなく,午前8時30分,患者が呼吸困難を訴えてナースコールで看護師を呼んだ。患者は,痰を飲み込めず,軽度のチアノーゼが認められた。被告甲病院の医師が,患者を診察し,扁桃炎,上気道閉塞と診断し,上気道閉塞の解除と扁桃炎の根治のため,被告乙病院(大学病院)に連絡をして,患者の受入れを求め,了承を得た。

 

午前8時50分ころ,救急車が到着して,被告甲病院の医師が同乗して患者は搬送され,午前9時20分ころ,被告乙病院へ到着した。救急車内で患者は,頻脈が認められたが,酸素マスクによる酸素投与で意識状態は清明で意思疎通も可能だった。

 

患者は,直ちに救急処置室に搬入され,B医師(救急外来の当直医)が診察したところ,かなりの呼吸困難(起座呼吸)があり,聴診で気道の狭窄音を聴取したが,酸素飽和度は,98-100%で安定していた。B医師は,患者は一刻を争って直ちに緊急気道確保をしなければならないような差し迫った状態ではないと判断し,胸部・腹部単純レントゲン撮影を指示した。

 

午前9時40分ころ,C医師(耳鼻咽喉科)は,B医師から,患者について,上気道の閉塞が疑われると説明されたことから,患者の口腔内を額帯鏡で診察したが,扁桃には異常がなかったため,喉頭病変を疑い,午前9時45分ころ,喉頭ファイパーで喉頭を観察したところ,喉頭蓋の著明な発赤と腫脹があり,声帯が確認できないほど声門を閉塞していたので,急性喉頭蓋炎と診断した。

 

C医師は,午前9時55分ころ,喉頭蓋の炎症を軽減させるため,ステロイド剤の点滴内投与及び声門下や下気道の状況を調べるために頸部レントゲン撮影の指示をした。C医師は,気道確保の必要性があると判断したが,患者の状態から,経口挿管は困難と考え,ミニトラックセルジンガーキットを用いた気道確保(ミニトラックによる気道確保)を選択した。

 

患者に対し,午前10時6分ころから午前10時13分ころにかけて,胸部・腹部単純レントゲン撮影及び頸部正面・側面レントゲン撮影が実施され,頸部側面レントゲン写真では,喉頭蓋の著明な腫脹と声門上部完全閉塞が認められた。

 

午前10時15分ころ,C医師は,B医師の介助で,患者に対し,気道確保を行う説明をした後,ミニトラックによる緊急気道確保を開始した。半座位にある患者の頸部を局所麻酔をして,スカルペルで,輪状軟骨の下方の皮膚に約2,3cm横切開を入れ,患者が半座位で皮膚によって視野が取れなかったので,C医師は,皮膚の上方と下方をモスキート鉗子でつまみ,これをB医師が上下に引っ張った上で,筋肉を剥離して,視野を確保し,気管前壁を指先で確認した。ガイドワイヤーが喉頭へ向かないよう,皮膚切開部分からやや斜め下方に向けて,穿刺針で第2・3気管輪間の輪状靭帯を穿刺し,気管内へ穿刺されていることを確認した。ガイドワイヤーに沿って,ダイレーターを気管内へ挿入して,穿刺孔を拡大し,ダイレーターだけを抜き取り,カニューレをガイドワイヤーに沿わせながら,気管内へ挿入しようとした時,患者が突然暴れ出し,自身でガイドワイヤーを抜去した。

 

ミニトラック穿刺箇所から,出血が始まり,押さえないとあふれるほどの激しい出血があったため,c医師は,穿刺部位の視野を確保できず,出血している皮膚切開部をガーゼで押さえながら,カニューレの再挿入を試みたが,ダイレーターで広げた穿刺孔がすぼみ,出血で視認できず,カニューレを再挿入できなかった。他の医師が,気管内挿管を実施することにしたが,声門はおろか喉頭蓋も十分観察することができなかったため,盲目的気管内挿管を試みたが,患者の激しい体動で挿管できなかった。気道確保のため,18ゲージの注射針5本を穿刺し,そこから酸素を流し入れる処置を行いながら,引き続き盲目的気管内挿管を試みたが,挿管操作中に,患者は呼吸停止及び心停止となり,蘇生薬の点滴投与や心マッサージをしながら,盲目的気管内挿管を試みた結果,午前10時35分,気管内挿管が成功し患者の心拍動が再開し,心肺とも蘇生した。午前10時45分ころ,B医師及びC医師は第2〜第4気管軟骨間に気管切開術を行った。

 

患者は,心肺・呼吸停止により,低酸素脳症となり,植物状態で症状固定となった。

 

患者及びその両親が,被告甲病院を開設する同病院の院長及び被告乙病院を開設する地方公共団体に対し,損害賠償請求訴訟を提起した。

 

請求金額

一時金1億6970万6237円,定期金1か月88万5000円

結  論

一部認容(認容額一時金1億4981万8175円,定期金1か月30万円)

争  点

@A医師は,8月13日午後9時20分ころの外来受診時に急性喉頭蓋炎と診断し,耳鼻咽喉科専門医のいる病院へ転送すべきだったか。
AA医師は,同日午後10時以降翌朝までの間,患者の全身状態を観察すべき義務があったのに,これを怠ったか否か。
BB医師及びC医師は,14日午前9時45分ころ急性喉頭蓋炎と診断した後,直ちに,患者に対し,気道確保を行うべきであったか。
CB医師及びC医師は,同日午前10時15分ころ,患者に対し,ミニトラックによる気道確保を行う際,抗不安剤ないし筋弛緩剤を投与すべきだったか否か。
DC医師のミニトラックによる気道確保の手技に誤まりがあったか。
EB医師及びC医師の過失と患者の後遺障害に因果関係があるか。

認容額の内訳

@治療費

80万9900円

A入院看護費及び雑費

766万2950円

B自宅介護費及び雑費

868万0000円

C自宅改装費

645万8980円

D交通費等

157万8970円

E文書料

2万8035円

F逸失利益

8659万9340円

G慰謝料

3000万0000円

H弁護士費用

800万0000円

I定期金賠償(自宅介護費)

1か月30万円

判  断

@この段階で,転送すべき緊急性があったとまでいえない。
A14日午前6時の時点で被告乙病院へ等搬送すべき義務があったにもかかわらずこれを怠った過失がある。
B検査の必要性と患者の状態から,B医師及びC医師が,レントゲン検査後に気道確保を試みたことは医師の裁量の範囲内。
C鎮静剤・筋弛緩剤は呼吸抑制が強く,使用しなかったことは適切。
DC医師は,緊急気道確保のため,ミニトラックを輪状甲状間膜に穿刺すべき注意義務があるのに、特段の合理的理由がないにもかかわらず第2・3気管輪間へ穿刺し,しかも,その手技は不適切であるから過失がある。
EC医師の過失がなければ,ミニトラック穿刺による孔を確認できないような出血が生じることはなく,その結果,早期にミニトラックによる気道確保を行うことができ,心肺停止に至らなかったか,心肺停止になったとしても,より早期に心肺を蘇生することができ,低酸素脳症が生じることはなかったといえる。

 

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