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呼吸器外科における過去の医療過誤・医療事故の裁判事例。事案の概要・請求金額・結論・争点・認容額の内訳など。

肺癌切除術における手技,フィブリン糊等の使用,術後管理の過失がいずれも認められなかったケース

 

大阪地方裁判所 平成15年(ワ)第5406号 損害賠償請求事件
平成17年4月27日判決 控訴・控訴棄却
【手技,入院管理,治療方法・時期】

<事案の概要>

患者(昭和16年生,男性)は平成12年3月15日,被告病院(大学病院)において,肺癌切除術(左肺上葉切除術・縦隔リンパ節部清術)を受けた。手術経過は,以下のとおりである。医師が開胸したところ,左肺上葉の腫瘤(肺癌)が,前方S3の部位にくるみ大で存在していた。縦隔胸膜を切開し,肺門を露出し,上肺静脈を結紮して上葉から離断し,上葉に流れる肺動脈3本(A1+2,A3,A4+5)を2重結紮して上葉から離断した。医師は,A3がやや太いと思いながら上葉への気管支を縫合器で機械的に閉塞して離断し,上葉を切除した。左肺上葉の腫瘤(肺癌)は,下葉への連続浸潤が疑われ,分葉不完全な部位があったことから,下葉の一部を部分合併切除した。術中の迅速病理検査では肺門部のリンパ節への転移は認められなかったが,縦隔リンパ節の郭清の範囲をR2aとした。下葉の部分合併切除等による肺実質切離・縫合部の針穴から空気が漏れていたが,医師は,患者が喘息による肺気腫を患っており,術中に空気漏れを完全に止めることは極めて困難であったことから,針穴にフィブリン糊をスプレー散布し,オキシセルで被覆した。胸腔内を洗浄し,出血がないことを確認してドレーンを留置し,肋間,筋層,皮膚を縫合して閉胸した。

術後24時間で790ccの血性排液がみられたが,1時間当たりの排液量は最大で100mlであり,2時間続けて100ml以上排液されたことはなく,術後5時間以上経過後,最大で70mlの排液量であった。同月17日未明,ドレーンから大量の出血が見られ,心肺蘇生措置が施されたが,心停止となり,患者は,出血性ショックにより死亡した。

病理解剖の結果,肉眼的所見では,左肺動脈A3を含む3本の上葉枝にかかる結紮糸に脱落やゆるみはなく,左肺動脈A3の分枝部末梢側から約5㎜にわたり亀裂が生じており,同部より出血したものと考えられた。組織学的所見では,肺動脈の中膜が菲薄で,左肺動脈の亀裂部を中心として切り出された肺動脈には,弾性線維の発達不良な部分が認められ,特に亀裂近傍は,中膜構築が乱れ不規則になっている場所があった。右肺動脈も組織学的に中膜が軽度菲薄で,弾性線維の発達不良な部分が認められ,それらの分枝である両側肺門部の肺動脈では,菲薄は明らかでなかったが,弾性線維の発達不良な部分が認められた。患者の左肺動脈の亀裂部周辺には,中膜の外側1/3に平滑筋細胞の変性と消失を示す部分が存在し,左肺動脈の亀裂部の極めて近傍に内膜の炎症細胞浸潤を伴う肥厚が認められた。

患者の家族(妻及び子ら)が,被告病院を開設する法人に対し,損害賠償請求訴訟を提起した。

請求金額

合計6364万4600円

結  論

請求棄却

争  点

①手術において操作を誤り血管を損傷した過失又は術部の観察を怠り血管損傷を見逃した過失があるか。
②フィブリン糊等の使用方法を誤り血管の破綻を招いた過失の有無
③術後,経過観察を怠り再開胸による止血措置を講じなかった過失の有無

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